大深度地下法の違憲性、憲法29条「財産権」侵害について・・・2021年2月28日『北陸新幹線の延伸を考えるつどい』

2月28日に開催された『北陸新幹線の延伸を考えるつどい』を会場に行ったりライヴ配信をリアルタイムで視聴したり、あるいは後日YouTubeにアップロードされた動画を視聴して、「美山町知井の新幹線問題を考える有志の会」代表の長野宇規・神戸大学大学院農学研究科准教授の講演と、日本共産党の原田あきら・東京都議からの報告をご覧になられたなら、地下40m以深なら地上の所有権者(家屋の他にもマンションやオフィスビルとか)に無断でトンネル掘っていいとか有りでエエのん?との疑問を当然に持たれたのではないでしょうか。

大深度地下法は憲法29条で保障された財産権を侵害する、違憲の法律なのでは・・・と考える上でヒントになる記事を2つ見かけましたので、参考にしてみてください。

 


 

東京外環道工事、大深度地下法の違憲性浮上

[Yahoo!ニュース・週刊金曜日:丸山重威 2021年1月8日号]

 「家屋損傷58軒、騒音・振動102軒」――東京外かく環状道路(東京外環道)の地下トンネルルート上の陥没、空洞発見で、周辺住民ら「外環被害住民連絡会・調布」は昨年12月27日、地域一帯の住宅308軒を対象に実施した被害調査の結果(回答132軒)を公表した。住民たちは資産価値の低下や新たな陥没、地盤沈下などを心配しつつ、不安な正月を過ごした。

 住宅街の道路と住宅敷地に陥没が発生したのは昨年10月18日。以来、現場は空洞を埋める土砂を運ぶダンプカーやミキサーなどが往復し、ボーリングやレーザー調査、測量などが続いた。国土交通省と東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)は、有識者委員会の中間報告を受けて「工事は陥没の要因の一つ」と認め、「住宅損傷などの補償をする」と発表したが「因果関係は調査中」としたまま、工事再開の意図は隠していない。

 こうした中、大深度地下法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の違憲性や外環道自体の問題性が明らかになりつつある。

 まず、大深度地下法の問題では「大深度地下は通常利用されない場所で、地上には影響を与えない」として地上の所有権者には一切無断で掘削を認めてきた大前提が、この陥没と空洞の発見で崩れた。また『日本経済新聞』がイタリアの衛星解析企業らによるデータをもとに12月18日付で報じたところでは、地下を掘削用のシールドマシンが通過した直後に一帯の地表が2~3センチ沈下したという。

 同時に問題になったのは陥没が起きた地域の地盤だ。ルート決定の際、その地域の地歴や地盤をどのように調べ、環境アセスメントをどのように行なったのか。明らかになったのは、高架を前提にしていたルートをそのまま地下に下ろして計画し、「大深度は地上には影響がない」との虚構を前提にした調査で事業が承認され、工事に入ったことだ。

【「個別交渉」で分断図る?】

 12月18日、NEXCO東日本の有識者委員会(委員長・小泉淳早稲田大学名誉教授)は「特殊な地盤条件下で行われたシールドトンネルの施工が要因の一つである可能性が高い」とする調査の中間報告をまとめ、報告した。

 NEXCO東日本はこれを受けて「家屋損傷については補償する」と発表した。しかし被害をすべて補償するかのように宣伝しつつ、実際には目に見える家屋の被害のみ対象に、たとえば「外壁のヒビの拡大について、セメントで補修するお手伝いはするが、それ以上の工事はそちらで……」(被害者Aさんへの回答)という姿勢。異物で埋めた穴や空洞の危険性や、ルート上および周辺の地上建築物の安全確保、住民の肉体的・精神的損害、将来に備えた責任などには口を閉ざし、被害者の「連絡会」との交渉には応じないままだ。1月8日からは「ご相談をお受けする」と個別の「相談会」を設定したが、ここでも「相談情報を公にする行為はお控え下さい」「団体でのご相談についてはお受けいたしかねます」とごまかし、個別「決着」を図る姿勢を見せている。

 昨年10月の陥没事故、同11月の空洞発見以来、一般にも「地権者が知らないうちに地下を掘るなど、そんな法律はいつできたのか」「そんな危険を冒して、2兆円もかかる外環道などやめたらいい」などの声が急速に広がっている。特に『日経』の衛星観測の報道は衝撃的で、リニア新幹線の建設問題とも絡めて「もう工事は無理では」との声も出る。外環道ルート周辺を流れる野川の酸欠気泡(本誌昨年3月27日号などを参照)は昨年末まで続いている。

 今年3月に予定される工事計画終了期限の延長を見越して、東京外環道訴訟原告団・弁護団は12月25日に新たな差し止め訴訟を東京地裁に提起。国交省やNEXCO東日本などに申し入れた。外環道沿線住民らの「外環ネット」が工事中止と大深度地下法廃止を求めて12月6日から始めた署名は年末までに2000筆を集めている。

 キズをこれ以上大きくしないためにも、「工事中止」の政治的決断が必要ではないだろうか。

 


 

調布市の市道陥没、外環道トンネル工事の補償はどうなる

[日経ビジネス電子版:江村英哲 2021年1月6日]

東日本高速道路(NEXCO東日本)は、2020年10月に東京都調布市で発生した市道陥没と東京外郭環状道路(外環道)トンネル工事との因果関係を認めた。地表に影響はないとされる地下40mより深い「大深度地下」の工事だが、沿線住民への補償が費用に上乗せされれば、外環道の事業性に疑問符が付くことになる。国や東京都を相手取り訴訟を起こした外環道トンネル沿線住民の代理人を務める武内更一弁護士に、補償問題について聞いた。


〔虎ノ門合同法律事務所の武内更一弁護士。外環道の沿線である東京都杉並区、三鷹市、調布市、世田谷区などに生活する住民が2017年12月に国と東京都を相手取り、国土交通大臣が行った「大深度地下使用認可」と、東京都知事などが認めた「都市計画事業承認・認可」の取り消しを求める訴訟の代理人を務める(写真:都築雅人)〕

―外環道トンネル工事のルート上にある東京都調布市の住宅街で発生した市道陥没について、原因はトンネル工事にあるとみていましたか。

武内氏:調布市で発生したトンネル工事ルート上の市道陥没が発生したメカニズムは、2020年6月に横浜市道環状2号線の相鉄・東急直通線「新横浜トンネル」のルート上で発生した陥没と同じだと考えています。ここでは、トンネル掘削においてシールドマシンが土砂を過剰に取り込んだことで、その上部に空隙(=すきま)が連続的に生じ、上層部の土層が崩落したことで地表が陥没しました。

 新横浜トンネルは地下19mを掘り進む工事ですが、外環道と同様のシールドマシンによる地下掘削工事でした。そのため、地下40m以深の大深度地下でも同様のメカニズムで陥没が発生すると私たちは裁判で訴えています。こうした事故が事前に発生しているのを知っていて地表陥没を予見できたのに、外環道トンネル工事を止めなかったことに問題があります。

―2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法)では「地表への影響がない」とされています。調布市の陥没でトンネル工事との因果関係が認められた場合、補償はどうなるのでしょうか。

武内氏:大深度法は損失が発生した場合の補償を想定していません。トンネル工事の結果、地表面に影響が出た場合の損失については大深度法に記載されていないのです。

 損害が発生した場合は、民法709条の「不法行為による損害賠償」を適用するしかないでしょう。「故意又は過失によって他人の権利や利益を侵害した者が損害を賠償する責任を負う」ということです。しかし、この崩落が「過失」によるものであることを国やNEXCO東日本は認めず、あくまで「想定外」であると主張するでしょう。

 崩落が予見できる状態で発生したならば「過失」があり、その場合は「補償」ではなく「賠償」となります。外環道トンネル工事が賠償責任があるようなプロジェクトならば、これ以上の遂行を中止するかどうかも問われることになります。

 「公共の利益となる事業」の推進を目標とする大深度法の目的は2つ。「地表の不動産占有者の許可なく地下を使用すること」、そして「具体的な損失が生じない限りは補償せず地下を使用すること」です。

 つまり、地権者の承諾を取ってプロジェクトを進めるとお金も時間もかかる事業を、それらを省いて推進するための法律で、当初から「外環道」と「リニア中央新幹線」のプロジェクトに焦点を当てたものであることが透けて見えます。ですから、「調布市の陥没は想定外であり、国やNEXCO東日本に過失はない」と主張する展開が予想されます。

―そもそも大深度法の検討時には今回のような地表が陥没するリスクは想定されていなかったのでしょうか。

武内氏:国が大深度法を検討する下地となった1998年5月の「臨時大深度地下利用調査会答申」では、地盤面が変異するリスクを指摘しています。「大深度地下は堅い地盤であるため良好な施工管理を行えば、地上への影響は少ないと考えられる」とする一方で、「施行時に過剰な土砂を掘削すると地盤の緩みなどが生じて地上への影響が及ぶ可能性がある」と述べているのです。

 大深度法は2000年5月に国会で可決し、翌2001年4月に施行されました。その際、地表への影響がないことを前提として、土地の権利者や居住者の承諾を取ることなく、補償もせずに大深度地下に使用権を設定できるとされました。「影響がある」と認めたら地権者に対して「補償をしなくてよい」「承諾を取らなくてよい」とはならないからです。

 しかし、それでは憲法29条の財産権を侵害する可能性が出てきます。私たちは大深度法そのものが憲法に違反する可能性があるため、大深度の使用認可は無効であると訴えを起こしているのです。


〔東京都調布市の住宅街で発生した市道陥没の応急復旧の状況(写真:東日本高速道路)〕

外環道工事は「仕切り直す必要も」

―外環道工事で実際に崩落が発生した現在、国や事業者にはどのような対応が求められるのでしょうか。

武内氏:地盤の状態によって地表面への影響が出る可能性が高いのならば、大深度法の前提条件が崩れることになります。ですから地権者の承諾を得るための交渉と補償をしなければなりません。大変な手間が必要ですが、手間をかけるべきなのです。

 大深度法38条では「原状回復の義務」について触れており、大深度空間の利用がなくなれば埋め戻す必要があると定めています。しかし、これは現実的ではない。地下水の流れなどを遮断しているトンネル内部の構造物(セグメント)を全て取り除いて元の状態に戻すことはできないでしょう。外環道事業については、少なくともこれ以上の工事をいったん中止して仕切り直す必要があるのではないでしょうか。

 そもそもコンクリートなどの建築部材でできている構造物には耐用年数があります。いつか補修しなければならない構造物を土中に埋めたままにしておけば、地表部で地盤沈下やトンネル内で出水が生じる可能性もあります。維持管理には建設以上のお金がかかるのです。

 私が代理人を務める外環道の訴訟では原告を13人に絞っていますが、こうした地下施設の上で何十年も暮らさなければならないとしたらどう思いますか。空洞が確認された場所だけではなく、生活に精神的な安定が得られない沿線上の住民も補償の対象に入ってくると思いますよ。

 現在は空洞も確認されず、なんともない場所でも、数年、数十年にわたって安全だという保証はありません。そんな地域は地価も下がってしまうかもしれない。それならば、国や事業者が適正価格で土地を買い上げるしかなくなってしまうでしょう。

―首都圏の物流が急増するなか、外環道の事業にはメリットもあるのではないでしょうか。

武内氏:国交省は事業評価監視委員会を設けて5年ごとに社会資本整備事業の内容を再評価しています。20年は7月30日に開催され、外環道が再評価されました。その結果、事業費は16年の1兆5975億円から7600億円も増加して、20年には2兆3575億円となりました。トンネルの一部で地中の断面をより広く確保するために工法を変更したことがコスト増の主な要因で、これにより投資額に対する経済効果を示す「費用便益比(B/C)」も大幅に低下しました。

 B/Cは道路の開通による移動時間の短縮効果などを金銭換算した「便益」を事業費で除して算出します。16年に1.9だったB/Cは、今回の再評価で1.01に低下しています。B/Cが1.0を下回ると事業を継続しても事業費が便益を上回ります。プロジェクトを継続しても“赤字”が増えるだけです。

 大深度法を活用してトンネル工事を進めているため、費用には用地取得費は含まれていません。加えて、今回の崩落に関する補償問題が加わればB/Cは0.9や0.8に低下する可能性もある。そこまでして事業を続ける意味があるとは思えません。