日本共産党 京都府委員会|北陸新幹線「延伸」計画は中止を――よびかけ
日本共産党京都府委員会と府会議員団、京都市会議員団は6月2日、北陸新幹線「延伸」計画の中止を求めて、よびかけ・見解を発表しました。
PDF→https://www.jcp-kyoto.jp/downloads/downloads-6282/
北陸新幹線「延伸」計画は、いま重大な局面を迎えています。
京都のまちと自然を壊し、巨額の税金を投入するこの計画の強行を許すことはできません。日本共産党は、あらためてこの計画の問題点を明らかにするとともに、京都を愛する府民のみなさんの共同の力でこの計画を中止させることを呼びかけるものです。
広範な府民の世論と運動で計画は中止させることができます。
◆新たな問題が次々浮上
日本共産党は、2016年に3回にわたって「北陸新幹線『延伸』計画についての見解」を発表し、
「人が大都市に集中し地域は『衰退』しないのか」、
「巨額の税金投入となる大型開発を安易に決定していいのか」、
「地元自治体の財政負担は」、
「『丹波高原国定公園』などの自然環境破壊につながらないのか」、
「新幹線ルートと併設する『並行在来線』はどうなるのか」、
などの5つの問題を指摘しました。
その後、新たな問題が次々浮上するとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりによって、高速・大量輸送交通網建設の是非が問われる状況になっています。
ところが国と北陸新幹線の建設などを担う鉄道・運輸機構は、2023年「敦賀〜新大阪間」の工事着工を前提に、2020年12月から「建設予定地」で環境アセスメント「本調査」を進めています。国交省、自民党・公明党が作る与党プロジェクトチームの「何が何でも建設」という姿勢は到底認められるものでなく、国民・府民に大きな負の遺産を背負わせることになります。
第一の新たな問題は、工事にともなう大量の残土、地下水、活断層などへの影響の問題です。「敦賀―新大阪間」140kmの8割がトンネルであり、その残土・建設汚泥(以下、残土)は880万㎥(ダンプカー片道160万台分)におよびます。ところが、その処理方針は未定で、残土の運搬によるダンプカー公害や残土に重金属が含まれている可能性、残土を投棄した埋め立て地の問題など影響は甚大です。また、京都を縦断する巨大トンネルによる地下水や水循環への影響や対策も明らかにされていません。京都には、酒造りやお豆腐など豊かな地下水を利用した地場の産業があり、水循環が脅かされることが危惧されます。
さらに大きな問題は、「現京都駅」を新幹線の駅として京都市街地を通す問題とともに、住居の立ち退きや補償問題を避けるために、住宅の地下40m以深を説明も同意も補償もなく自由に掘れる「『大深度地下の公共使用に関する特別措置法』(以下、『大深度法』)の活用を検討する」としていることです。東京外郭環状道路工事では「大深度法」による工事によって東京都調布市で陥没事故が発生し、住宅のヒビ割れ・振動が相次ぎ、大問題になっており、「大深度地下工事は安全」という前提が崩れています。
また、現在工事中の「金沢―敦賀間」の工事では2回にわたって建設費が膨張、2兆1000億円ともいわれている「延伸」工事費用の更なる膨張は必至で、それにともなう国民や自治体への巨額の費用負担など許せません。
第二の新たな問題は、リニア新幹線や北陸新幹線など高速・大量輸送網は、少子高齢化・人口減少社会の中でその優先度は低減し、その必要性そのものが問われる状況となっていることです。こうした計画は、建設費だけでなく膨張する維持更新費用を含め巨額の「債務」を将来にわたって国民に押しつけるものであり、大都市へ「人・もの」を集中させ、地方の疲弊をいっそう加速させる計画として、これまでも厳しく批判されてきました。
今日の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりは、再生可能エネルギーへの転換と省エネ社会の実現、自然と共生する社会の実現、いのち・暮らしを最優先にする社会の必要性を強く問いかけています。こうした点でも自然環境・住環境に大きな影響を与え、巨額の税金を投入する北陸新幹線「延伸」計画は、時代の流れに逆行するものではないでしょうか。
あわせて重大なことは、JR西日本は、在来線のダイヤを大幅に縮小しようとしていることです。
いま政治がやるべきことは、北陸新幹線「延伸」ではなく、コロナ禍で苦しむ国民・府民のいのちと暮らし・医療・営業への支援、東海道新幹線・在来線・地域の公共交通の維持・管理・充実・耐震化、学校や役場・公民館や道路、橋梁、公園など地域の公共施設の整備にこそ税金を使い、誰もが安心して住み続けられる社会を作ることです。
北陸新幹線「延伸」計画の必要性と問題点を正面から検討し、「中止」に舵を切ることを強く求めます。
◆京都のまちと自然を壊す計画はストップ
政府・財界は2023年「敦賀―新大阪間」の工事着工を何が何でも進めようとしています。京都府・京都市も、「延伸」計画の問題点について、まともな検証も行わないまま「国家的プロジェクトだから」として「延伸」計画を進めています。
しかし、「建設ありき」の姿勢に批判も強まっており、「検証」「中止」を求める住民の運動が広がっています。環境アセスメント受け入れをめぐって、「『本調査』の受け入れを拒否する決議」をあげた地域、「十分な説明を求める」とする地域などの動きが広がっています。京都市内では、地下水への影響や大深度地下工事への不安、残土処理の問題をめぐって住民運動が起こっています。
また、「延伸」工事を巡る様々な問題について
「京都縦断 難題山積 自然や巨費負担懸念」
「先行きは見通せない」
「北陸新幹線延伸『必要か』…自然破壊・残土 ルート沿い影響懸念」
「美山の地区 環境アセス見合わせ」
「知っていれば(移住して)来なかったかも」
などのマスコミ報道も出ています。2018年4月の京都府知事選の世論調査では、「再検討・中止」が45%にのぼっています。
◆京都府民のみなさん
京都では、これまで大文字山ゴルフ場建設、ポンポン山ゴルフ場建設、ポンテザール橋建設、鴨川ダム建設など京都のまちを壊す様々な計画に対して住民が立ち上がり断念に追い込みました。また、これらの問題は、国政選挙・首長選挙でも大争点になって世論の力で政治を動かしました。今が頑張り時です。「京都を守りたい」という思いを今再び発揮して、「京都のまちと自然を壊し、巨額の税金を注ぎ込む北陸新幹線『延伸』計画ストップ」の声を上げ政治を動かしましょう。総選挙や来年2022年4月の知事選挙、来年夏の参議院選挙で北陸新幹線「延伸」問題を大きな争点にして、「中止」の世論を示しましょう。
日本共産党は、みなさんと力を合わせ北陸新幹線「延伸」計画ストップのために全力をあげます。
{1} 財界主導、安倍・菅政権による北陸新幹線「延伸」計画
北陸新幹線『延伸』計画の大もとになっているのは、安倍内閣が2014年7月に策定した『国土グランドデザイン2050』や2015年策定の『国土形成計画』による国土計画です。そこでは、リニア中央新幹線や整備新幹線建設が「交通ネットワークの充実による国際競争力の強化」の中核として位置付けられました。リニア中央新幹線は、東京〜名古屋〜大阪を1時間で結ぶことで「首都圏・中部圏・近畿圏の三大都市圏」を一体化し、北陸新幹線建設と合わせ「世界最大のスーパー・メガリージョン(三大都市圏を一体化する巨大経済圏)」を形成し、
「世界から人・もの・カネ・情報をひきつけ、その活力を取り込むことで、新たな地方創生と我が国全体の持続的な成長につなげる構想」
「2020年以後を見通し、観光立国に対応した国土づくり」
とされました。「わが国の国際競争力強化」「経済成長促進のための起爆剤」という財界の要望に応えるものとなっています。関西の財界も、
「関西圏は、東京、名古屋とと大阪以西を結ぶ『スーパーメガリージョンの西の核』と位置付けられており(関経連NOW 2020年1月号)、リニア中央新幹線・北陸新幹線の早期開業に強い期待感を示しています。また、京都府知事も「関西全体の発展につながる国家プロジェクト」(2019年9月議会答弁)
と「建設ありき」の姿勢です。
何が何でも2023年度工事着工を狙う
当初計画では、北陸新幹線「敦賀―新大阪間」の工事は、2030年頃の着工・2045年開業とされていました。ところが、「早期開業」を求める関西政財界の強い要求をうけ、「『金沢―敦賀間』開業は3年前倒しで2023年春とする」(2015年 政府与党申し合わせ)とされました。さらに関西経済連合会は2019年に「2046年『敦賀―新大阪間』開業では遅すぎる」「2030年頃に全線開通すれば、当初の開業予定の2046年度までに4兆3千億円の経済波及効果がある」と強調。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)は、2023年の「金沢―敦賀間」の開業から切れ目なく工事に入り、2023年頃を目処に「敦賀―新大阪間」着工、10〜16年前倒し開業をめざす方向を要求しています。しかし、現状は「金沢―敦賀間」の工事は大幅に遅れており、北陸新幹線の建設などを担う鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)は、昨年2020年11月に「金沢―敦賀間」開業の1年半延期と2,880億円の建設費の膨張を発表しました。
与党整備新幹線建設推進PTの西田昌司参院議員は、「莫大な費用がかかる」という批判に、当初は「北陸新幹線構想は、関西圏の起爆剤となる構想。予算はたかだか2兆円程度」(2015年8月『週刊西田』)と述べていました。ところが「地元自治体負担への懸念」が出される中で、西田参院議員は
「地元負担があるかぎり、整備新幹線に反対する自治体は必ず出てきます。そんな状況では、新幹線はいつまで経ってもできません」「全額国費で整備すべき」(建設メディア『施工の神様』2020年4月1日インタビュー記事)
といっそうの税金投入を呼びかけるようになっています。また、「地下水への影響」についても
「新幹線のトンネルは、京都の大きさからしたら小さなもの。針に糸を通すようなものだから問題にならない」(2020年1月29日京都市長選挙での西田参院議員演説)
など、道理なき発言を繰り返しています。北陸新幹線『延伸』計画の大きな矛盾と綻びが表れています。
【※注:北陸新幹線のルートは、東京を起点に、長野、富山、金沢、福井(敦賀)、京都などを経由して大阪へ向かう、総延長700kmに上る路線です。1997年10月に東京―長野間が開業。2015年3月からは金沢まで営業運転。当初の計画では、金沢―敦賀間は2025年開業、敦賀―新大阪間は2030年頃に工事着工して2046年頃の開業とされてきました。敦賀―新大阪間のルートは、福井県小浜市から京都駅を通る小浜・京都ルートが与党整備新幹線建設推進PTで決定され、その後、2017年3月には京都駅から京田辺市の松井山手駅を経由して新大阪駅に至るルートが決定されました。】
{2}北陸新幹線『延伸』計画…噴出する大問題
[1]京都のまちと自然を壊す残土・建設汚泥、水循環への影響
(1)工事にともなう大量の排出残土・建設汚泥
北陸新幹線『延伸』計画は総延長140km、その8割(主に京都府と大阪府)がトンネルとなり、掘削残土は少なくても880万㎥と莫大な量です。京都府の環境影響評価専門委員会(2020年3月12日)でも
「今回の事業は、世界的に見ても1・2を争う非常に長いトンネル、掘削発生土は膨大な量」
と指摘されています。内径10m(山岳トンネルの場合、都市部は10〜13m)、延長112kmで計算すれば掘削残土は10トン積みのダンプカーで片道160万台という膨大な量となります。
●まちと自然環境を壊す
北陸新幹線(敦賀―新大阪間)に対して府民から
「トラックや重機が長期間にわたり、日に何度も通ることは景観を損なうと同時に観光客、近隣住民の命を脅かすのではないか」
「美山町の里地里山は日本の財産として保全されるべきもの。そこでの開発行為は極めて慎重に行われるべきもの」
などの多くの声が出されました。大量の残土に関して、①処理する場所がない、②搬出によるダンプカー公害、③土砂に有害な重金属が含まれる可能性、など大問題です。右京区京北では、
「残土が谷に捨てられたりしたら大変だ。最近の異常降雨や強力な台風に見舞われた時、土砂捨て場の倒壊が起こるのではないか」
との声が出ています。これまでにも丹波広域基幹林道の工事で出た残土が上流の谷に投棄され、その土砂が2018年の豪雨で一気に流れ落ちる事故が起こっています。谷への投棄は次の大災害の引き金になる可能性があります。
●残土処理方針を持たない鉄道・運輸機構
鉄道・運輸機構が示す対応策は、「公共工事での活用・工法の検討・場内再処理」としていますが、専門家や自治体関係者から、
「本事業内での再利用や、他の公共事業への有効利用等で消費できる量ではないと考えられる」
と厳しい意見が出されています。ほとんどがトンネルの北陸新幹線『延伸』で、“場内(トンネル内)での再処理”などありえません。このように、鉄道・運輸機構は、残土処理のまともな方針を持っていません。残土の問題は、山間部だけでなく、京都市内の大深度地下工事でも大問題です。
●ヒ素など重金属が含まれる危険
現在の北陸新幹線『延伸』ルートは、掘削残土の中にヒ素など毒性の強い重金属が含まれる可能性が高い地質です。丹波山地には、泥を主体にした岩石(頁岩や泥岩など)やチャート(堆積岩の一種)、海底火山からの噴出物も多くみられます。「ヒ素は泥質物に依存している」と指摘され、ルート上にはそれが大量に存在します。この区域でトンネルの掘削工事が行なわれれば、土砂が大気(酸素)や水に触れ、環境基準を超えたヒ素が溶出する可能性があります。北海道新幹線のトンネル工事では、環境基準値の270倍という高濃度のヒ素を含む汚染土が明らかになり、大問題になっています。こうした地質の状況が明らかになっている場所での工事は行うべきではありません。鉄道・運輸機構は、まず、これまで行った10ヶ所のボーリング調査の結果を住民の前に公表すべきです。
(2)水循環への影響
今回の北陸新幹線『延伸』計画の特徴は、美山から大阪に向かって京都を縦断する巨大トンネルが掘られるという点にあります。
巨大トンネル建設による影響は、第一に、由良川・桂川・鴨川の京都の主要な3河川を横切る問題、第二に、京都市の地下にある琵琶湖に匹敵する水量をたたえるという巨大な『水盆』への影響、第三に、全域での森林や田畑・環境への影響です。
これまで巨大トンネルの建設が、地上で水の枯渇や環境破壊に結びついた例は少なくありません。京都でも新幹線東山トンネルの建設に関わって、東山区今熊野地域で地下水の枯渇や振動、陥没事故が発生、10年近くたってから大問題になり、トンネル上の6軒の家屋では全壊のの被害が発生するなど大問題になりました。京都の各自治体からもすでに、生活用水、農業用水、水道の取水源への影響、酒造業をはじめとした食品製造業、ホテルなど観光業への影響、地盤沈下を心配する声、木津川を含め多数の河川及び農業用水への影響について危惧する声が出されています。大深度のトンネルが河川に与える影響については、リニア新幹線が地下をくぐる計画の大井川で大問題になっています。
尾池和夫・静岡県立大学学長は2020年7月26日の京都新聞コラム『天眼』「トンネルと水と地震と」で、東海道線丹奈トンネルを採り上げ、
「トンネルの先端が断層に達した際、トンネル全体が水で溢れるほどの湧水事故が発生した」
「丹奈盆地では、トンネル工事の進捗とともに水不足となり、灌漑用水が確保できず飢饉となった」
と紹介しています。
京都市伏見区では、1928年、奈良電鉄による地下鉄計画が持ち上がった際、酒造りへの影響が心配され、関係者は有識者に地下鉄工事による地下水への影響調査を依頼。その調査によって地下鉄工事による醸造用水への影響の深刻さが科学的に実証され、結果、地下鉄案は廃案となりました。鉄道・運輸機構は、北陸新幹線『延伸』工事による京都の3河川(由良川・桂川・鴨川)への影響を徹底調査し市民の前に公表すべきです。
(3)断層への影響
『環境影響評価方法書』の「京都府内の路線概要」に示された対象事業実施区域には、「三方―花折断層帯」「京都盆地―奈良盆地断層帯北部」「宇治川断層」等の活断層が示されています。これまでわかっているだけでも京都府内には比較的大きな断層が多数存在しています。工事の困難性とともに、トンネル工事が地域に与える影響やトンネル自体が被る影響は大きいと考えられ、『環境影響評価方法書』が、こうした巨大断層通過について究明がないのは大きな欠陥です。
[2]大深度地下工事による、中心市街地の住環境への重大な影響
北陸新幹線『延伸』計画では、大深度地下工事が検討されています。計画では、現行JR京都駅に向けて市街地を通すことから、住環境への影響、立ち退きや補償問題を避けるため、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(以下、「大深度法」)を適用するとしています。昨年、「大深度法」を適用した東京都調布市の外環道建設工事現場の真上で崩落事故が発生。その後も、ルート上3ヶ所で地下の空洞が見つかり大問題になっています。東日本高速道路も因果関係を認め謝罪しました。「大深度法」は、地表から40m以深を「大深度地下」と定義、その工事は絶対安全ということを前提に、地権者の承諾を得ることなく、無補償でその土地の地下を使用することができるというものです。日本国憲法には第29条の第1項で
「財産権は、これを侵してはならない」
と定められていますが、「大深度法」は、それを踏みにじる憲法違反の法律です。事業者にとっては“地下工事自由法”と言うべき法律です。
2020年2月の衆議院予算委員会で日本共産党の笠井亮議員が
「『大深度法』活用は絶対安全といえるのか」
と追及したのに対し、政府は「今回の陥没事故は特殊なケースで大深度地下工事は地上への影響ない」の一点張りです。しかも、「ボーリング調査は十分だったのか」といった問題、工事による異常な振動など様々な予兆が出ていた問題などへの慎重な検証もなしに掘り進められました。その結果、陥没事故を起こし、住民への被害は広がり、建設費も大きく膨張しています。“大深度地下工事は安全”などとは到底いえない状況です。このような危険な大深度地下工事を前提とした北陸新幹線『延伸』計画は中止すべきです。
[3]2兆1000億円建設費さらに膨張、国民と自治体に大きな負担を押しつける
北陸新幹線『延伸』計画では、施設の建設と保持を鉄道・運輸機構が行い、建設費の負担は、JRがその利益に応じて使用料を払い(施設の借り賃)、残りを国と地方自治体が、それぞれ3分の2、3分の1を負担することになっていますが、その負担割合は決まっていません。建設費は‘2兆1000億円’と言われていますが、そこで収まる保証は全くありません。現在工事中の北陸新幹線「金沢―敦賀間」では、当初の1兆1858億円の建設費が、資材や人件費の高騰、敦賀の駅舎の設計変更、加賀トンネルでの地盤の崩れなどによって2回にわたって膨張し、1兆7000億円近くまで膨らんでいます。金沢―敦賀間の建設費は1kmあたり148億円、北陸新幹線『延伸』計画の建設費は1kmあたり150億円ですが、ほとんどが地上を走る金沢―敦賀間と、8割がトンネルの「敦賀ー新大阪間」で、建設費がほぼ同額などはありえません。地上での建設工事に比べて、地下でのトンネル工事はその費用が数倍以上と言われています。しかも、地下建設工事では、トラブルが多発し建設費の膨張が起こっています。JR東海は2021年4月27日、リニア中央新幹線の建設費が、品川、名古屋駅の難工事や残土対策、地震対策で1兆5000億円も膨張すると発表しました。工事の見積りも、自治体負担額も明らかにしない北陸新幹線『延伸』計画を強行することは許されません。
『並行在来線』問題…生活や通勤通学に必要な在来線を縮小・切り捨て
並行在来線は、北陸本線が通過する各県が買い取り、第3セクターとして運営しなければならないとされ、経営分離(1990年以降の政府与党合意で大原則に)が求められています。その結果、長野県や富山県では、在来線の縮小・廃止、運賃の値上げ、値上げによる乗客離れ、経営困難が顕在化しています。また、金沢以東が第3セクターになることで特急列車は「金沢止まり」となり、『サンダーバード』などの特急列車の一部、または全てが廃止になることも大きな問題です。現在、京都に関わるJR奈良線・片町線(学研都市線)、湖西線、山陰本線など、どれが並行在来線なのかはっきりしていません。
さらに‘並行在来線’かどうかにかかわらず、住民の足を切り捨てる計画が各地で進んでおり、生活や通勤通学への重大な影響が出ることは必至です。
{3}時代遅れの『延伸』計画は中止し、いのち・暮らし優先に
リニア新幹線や北陸新幹線計画は、これまでも重大な問題点が指摘されてきましたが、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 による感染症 COVID-19 の広がりは、計画の問題点をいっそう浮き彫りにし、リニア新幹線や北陸新幹線『延伸』計画の是非を問うものとなっています。
[1]北陸新幹線『延伸』より、いのち・暮らし
公共事業は、国民のいのち・安全を守り、健康で文化的な生活を支える基盤を整備するためのものです。公共性、公平性、採算性を踏まえ、自然環境、生活環境に配慮し持続可能な地域社会に役立つよう、何よりも国民・住民の理解と納得、同意を前提にして実施されるべきものです。
今、新型コロナウイルス感染症 COVID-19 の広がりによって国民のいのち・暮らし・営業が脅かされている中、また毎年のように大災害に直面している中、医療や介護を削減し、リニア新幹線や北陸新幹線などの大型事業に巨額の税金を投入することが政治の仕事なのでしょうか。北陸新幹線『延伸』計画は中止し、税金はいのち・暮らし・災害対策にこそ振り向けるべきです。
[2]自然との共生、住環境を守る社会へ
今にち、気候危機に対して、2050年までにCO2排出実質ゼロ、2030年までに排出の半減が国や政府・産業界・市民に呼びかけられています。そのためには、自然との共生を進め、原発に頼らず、化石燃料に頼ってきたエネルギーを再生可能エネルギーに転換、省エネを進めることなど、これまでの生産構造や社会のあり方の大転換が求められています。さらに、新型コロナウイルス感染症 COVID-19 の広がりは、いっそう自然と共生する社会、省エネ社会への転換を問うものとなっています。
北陸新幹線『延伸』ルートの上には『芦生の森』や『丹波高原国定公園』という豊かな自然があります。また、京都市内には、琵琶湖に匹敵する豊かな地下水や酒蔵、埋蔵文化財、世界遺産、歴史的建造物、そして市街地が広がっています。こうした、自然環境や文化財、住環境に大きな影響をあたえ、大量のエネルギーを消費する北陸新幹線『延伸』計画は、自然との共生をめざし、気候危機に立ち向かう時代の流れに逆行するものです。
‘延伸’工事による自然環境や住環境への影響と対応について『環境影響評価方法書』はすべてにわたって「回避・低減できる」と記述しています。これについて『環境影響評価方法書』の中で紹介されている市民からの意見は、
「あらゆる影響への答えが『回避できない場合、影響が小さくなるように配慮・検討さえすれば回避・低減が図られる』と根拠のない主観的な結論ばかり。これでもし何か起これば『想定外』として済ますつもりか」
という厳しいものです。
【※注:‘延伸’計画の対象となる8市1町には、酒蔵28、井戸713、湧き水3、温泉地5、学校など978、医療・福祉関連238、埋蔵文化財2506、指定文化財540、世界遺産:京都市14+宇治市2、伝統建造物保存地区(京都市)4ヶ所、歴史的保存地区(京都市)14、歴史的特別保存地区(京都市)24が分布――『環境影響評価方法書』】
[3]住民の暮らしを支える公共交通の充実を
そもそも少子高齢化・人口減少のもとで「東京などの大都市に企業の拠点集中」「大都市への移動のスピード求める」など「人・もの・カネ・情報」の集中を強める高速交通網・大量輸送機関建設の必要性そのものが問われてきました。コロナ禍の下でその是非がいっそう問われる状況になっています。
三菱総合研究所は、研究レポート『ポストコロナの経営 鉄道』(2020年7月22日)で5,000人にのぼる生活者アンケートを実施しました(2020年4〜6月)。その結果、今後リモートによる自宅や自宅周辺でのシェアオフィス希望が増え、そのことによって生活圏内での近距離移動が増える傾向を指摘。居住地も、都市圏から地方への分散傾向を示しているとしました。また、企業経営者1,032人に行った『コロナ収束後の企業活動』についてのアンケート結果の特徴は、第一に、大企業の8割が「(コロナ収束後も)在宅勤務・テレワークを継続したい」とし、「『不要不急の出張の自粛』『時差出勤』『オンライン会議』を2〜3割の企業が継続する」としています。明らかに移動需要の減少傾向がみられます。第二に、企業のオフィス立地についても、東京にオフィスのある年商1000億円以上の企業の内48%がオフィスの縮小を検討、35.5%が移転を検討(このうち16%が東京以外への移転を検討)と回答、オフィスの縮小・地方分散の傾向です。また、「移動からリモートへ。産業構造の大転換」(2021年4月26日『ビジネス+IT』サイト)といった特集も組まれています。今日、大都市への「人・もの」の集中、移動のスピードは求められていません。
日本社会は、高齢化や人口減、過疎化といった問題に直面しており、いつまでも住み続けられる社会を考えたとき、生活圏の中で暮らしを支える公共交通の役割は重要です。北陸新幹線など時代遅れの高速鉄道建設計画は中止し、地域に根ざしている鉄道路線の廃止や第三セクター化を止め、鉄道施設のバリアフリー化、駅のホームドア設置、駅のエレベーター・エスカレーター設置など国民の移動の権利を保障する対策、住民の暮らしを支える公共交通の充実こそ最優先に行うべきです。
[4]東海道新幹線や在来線の耐震化こそ最優先に
推進派は、「リニア新幹線や整備新幹線は、大災害時の東海道新幹線の代替え機能」として、北陸新幹線などの建設の必要性を訴えます。20年以上も先にできるかどうかもわからない新幹線を大災害代替え機能として税金投入を決め、現在ある東海道新幹線や在来線の耐震化を遅らせることは許されません。今日、大災害が多発し、30年以内に70〜80%の発生確率(政府地震調査研究推進本部)とされる南海トラフ地震が懸念される中、今ある東海道新幹線や在来線の耐震化こそ急ぐべきではないでしょうか。新幹線や在来線の電柱の耐震化ですが、
「東北新幹線は、東日本大震災で540本の電柱が折れるなどした。…こうしたなかでJR東日本は、東北・上越新幹線の電柱20,000本のうち5,000本を対象に耐震補強する方針を決め…2,200本が補強済み」
とされています。また、阪神・淡路大震災では、高架橋の倒壊が各地で起こり山陽新幹線の運行がストップ、全面復旧は81日後になりました。こうした大地震による高架橋の倒壊などを受けて、高架橋のコンクリートの柱に亀裂やひび割れが入ることへの対策が急がれました。JR西日本の発表(2019年3月19日)によると、JR西日本管内の新幹線と在来線の高架橋柱の曲げ破壊(曲げの力による破壊)対策は5割にとどまっています。また、駅舎の天井の耐震化は、新幹線で2割、在来線で3割といった現状です。北陸新幹線より、従来の新幹線や在来線の耐震化こそ急ぐべきです。