所管事項の調査
下記のテーマについて、理事者及び参考人から説明を聴取した後、質疑及び意見交換が行われた。
・水素社会の可能性と課題について
◯能勢委員長 まず、所管事項の調査についてでありますが、本日のテーマは、「水素社会の可能性と課題について」であり、参考人として、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授の橘川武郎様に御出席いただいております。
本日は、大変お忙しい中にもかかわらず、本委員会のために、快く参考人をお引き受けいただき、まことにありがとうございます。
橘川様におかれましては、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授として、エネルギー産業論、日本経営史を専門に研究をされ、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会の委員を務められるなど、幅広く御活躍をされていると伺っております。
本日は、そういった日ごろの御活躍を踏まえたお話をお聞かせいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、初めに理事者からテーマに係る説明を聴取いたします。
説明は簡潔明瞭にお願いいたします。
◯金谷環境部副部長 環境部から水素社会の実現に向けた京都府の取り組みについて御説明させていただきます。
お手元に配付の1枚ものの資料をごらんください。
京都府では、水素社会の実現を目指して、条例、計画等を策定し、京都の知恵やものづくり技術等を生かしながら、燃料電池自動車の普及や水素関連技術の開発等を促進しております。
まず、基本となる条例や計画ですが、「京都府電気自動車等の普及の促進に関する条例」を平成21年度から施行しております。この条例は、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車及び燃料電池自動車の普及促進を総合的、計画的、そして早期に進めるための時限条例でございまして、これまで2回期間延長いたしまして、現在の有効期限は、来年度末となっております。本条例に基づき、これら電気自動車等の自動車取得税や自動車税の減免を実施しております。
この条例に基づき、2つ目の四角ですが、京都府電気自動車等普及促進計画を策定しております。電気自動車等の普及促進、利用環境の整備等に関する計画となっておりますが、パリ協定の発効等の国内外の環境変化や電気自動車等の普及状況を踏まえまして、現在、改定作業中でございまして、今議会の常任委員会に骨子案を報告し、12月定例会に改定案を上程させていただきたいと思っております。
また、平成27年に京都府燃料電池自動車普及・水素インフラ整備ビジョンを策定しております。このビジョンはFCV[※Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車]の普及や水素ステーションの整備に関する目標を定めますとともに、その達成に向けた具体的な取り組み等を定めておりまして、普及目標は、かなり高めでございますけれども、表のとおりの設定をしております。また、その達成に向けまして、初期需要の創出などの重点施策に取り組むこととしております。
裏面にまいりまして、条例、計画等に基づく具体的な施策でございますが、まず先ほど申しました条例によりまして、電気自動車等の自動車取得税と自動車税の減免を行っております。京都府におきましては、自動車取得税を非課税にしますとともに、自動車税を新規登録年度の翌年度分とさらに府独自の措置としまして、翌々年度分の約75%を軽減しております。
次に、京都トヨペット株式会社からこの9月にFCV「MIRAI」1台の寄贈を受けましたので、公務用はもとより、イベントでの展示や災害時の非常用電源などに活用し、FCVの魅力と可能性を広く府民にPRしていきたいと思っております。
また、市町村から水素ステーションの適地に関する情報を収集し、この情報を水素ステーション整備実績のある事業者に提供しております。
自動車以外では、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム(エネファーム)の導入に対する低利融資を府が行っておりますスマートエコハウス促進融資の中で、ご覧のような条件で実施しております。
技術開発・産業創造の促進といたしましては、1つ目の丸でございますが、食品廃棄物から水素を生成し、これを燃料電池で発電して事業所内の電力を賄うというシステムの事業化を推進しております。
また、2つ目の丸印ですが、高圧タンクを必要としない固体水素源型の燃料電池の開発に、これは、オール京都での科学技術イノベーション推進協議会で取り組んでいるところでございます。
最後に、普及啓発の取り組みですが、次世代自動車フェアin京丹波ですとか、京都環境フェスティバルなどで、展示ですとか試乗会の実施を行いますとともに、一番下のところですが、関西広域連合の事業として、写真コンテストを実施いたしまして、京都環境フェスティバルにおいて表彰しているところでございます。
京都府における取り組みの概要は、以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
◯能勢委員長 では、次に参考人の御意見を拝聴したいと思いますが、説明の準備が整うまでしばらくお待ち願います。
それでは、橘川様、よろしくお願いいたします。どうぞ、お座りください。
◯内藤参考人 東京理科大学の橘川と申します。座らせていただきます。よろしくお願いいたします。
それでは、これから「水素社会の可能性と課題」と題しまして、約30分ほどお話をさせていただきます。
本日は、こういう貴重な機会を賜りまして、感謝いたします。
あと、申しますのは、私、理科大の教師なんですが、実は専門は経営の歴史という歴史家でありまして、日本の歴史をひも解きますと、エネルギー環境問題の新しいことというのは、かなり京都から始まっていることが多いわけですね。そもそもインクラインなんていうのもそうでしたし、当時、石炭で汽車を走らせる時代に電気を使って、市電というのを始めたり、最近でいいますと、けいはんなのスマートコミュニティだとか、あるいは市バスにエタノールを25%混ぜる取り組みなどというのは、全国は3%までなので、非常に先進的なことを次々やられているわけで、この分野でも京都がこれから出番があるのではないかと思いまして、きょうは、少し全国の動向を織りまぜながら、一方で水素のいいことばかりだけではなくて、いろいろ抱えている問題点も踏まえましてお話をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
それでまず、なぜ水素なのかと、水素の意味を確認したいと思います。
上のほうは、よく言われていることです。地球にまずやさしいと。正確に言いますと、利用時に二酸化炭素が出ないというのが、燃料の中では際立った特徴でありまして、水しか出ないということであります。ただ、気をつけなければいけないのは、その水素をつくるときに、今多くの日本の水素ステーションというのは、例えば電気分解の電解工場から水素を持ってきていますけれども、その工場では二酸化炭素を出しながら生産をしていますので、最終的には、これが再生可能エネルギーと結びつくと理想的なんですけれども、利用時に二酸化炭素が出ないからといって、つくるときに出ないとは限らないというところは、押さえておかなければいけないと思います。
それから、2つ目には、省エネに非常に強いということです。電気というのは普通つくるときに100エネルギーを投入しますと40から50くらいが熱という形で、ある意味で無駄になってしまうわけですが、燃料電池のつくり方は化学反応なので、ほとんど無駄なく電気をつくれると、そういう意味でメリットがあります。それからさらに、家庭用の燃料電池、商品名で言うとエネファームというような形で使いますと、その熱も使える形になりますので、二重の意味で省エネに貢献するというのが2番目の点です。
それから、3番目には、非常時に強いということですね。例えば直下型地震なんかがあったときに、燃料電池車がありますと、その家のみならず、周辺のお宅まで本当に緊急時は、しのぐことができると。ただ、これは同様の機能が電気自動車でもあります。EVについてもあります。しかし、EVよりはFCVのほうがこの機能は、強いと言われています。ここで申し上げたいんですが、よくEVとFCVを対立的に捉える傾向があるんですが、私は両方大事だと思っています。京都府の環境部の資料を事前にいただきましたが、FCVをFVの一種と捉えているという見方をされていて、これ非常に全国的に見ても斬新なところじゃないかと思います。EVも大事だし、水素を使うFCVも大事だというのが重要なポイントだと思います。
この3つくらいまではよく言われるんですが、4つ目にいきますと、日本の技術力を生かせる分野だということです。今、残念ながらエネルギー分野で日本が強かったところがだんだん外国に負けていっています。例えば、太陽光発電のパネルなんか、15年前だと日本が断トツだったわけですが、現在メガソーラーが各地にできると、中国で雇用が増えるというような状況に実態はなっているわけですね。でも相対的には例えば日本が比較的強かった原子力なんかも最近だいぶん傾いてきていまして、エネルギー周りで今、日本が1番世界に誇れる技術というのは地熱です。例えば、アイスランドは地熱大国といいますけれども、これもかなり日本の技術なんかで動いています。それ以上に日本が強いのが燃料電池の分野だということで、特許の数なんかで断トツに日本がトップです。ただし、これ燃料電池では先進国だけれども、水素インフラでは先進国ということを意味しないということは後で申し上げたいと思います。
それから、今日1番強調したい点ですが、この水素というのは2次エネルギーです。あるいは水の電気分解で水素をつくったりすると3次エネルギーということになりますから、いろいろな1次エネルギーと組み合わせることができまして、他のエネルギーの弱点を補うことができるというところが大きな特徴です。ということで、エネルギーのあり方を変えるという、ここが水素の1番の魅力的なところでありまして、どういう使われ方をするのかよくわからないというのが率直なところだと思います。その可能性を秘めているというのがこの水素の1番の魅力であり、まだ不確実性があるところだというふうに思っております。
少し大きな話をさせていただきますと、今、人類は2つの大きな危機に直面していると思います。今日でも最大の危機は、やはり飢餓だと言われています。70数億人、人類に人口がありますけれども、今でも8億人以上が、その飢餓ゾーンにいるというふうに言われています。この飢餓を解決するために豊かになる必要があるわけで、豊かになるということは、どうしてもエネルギーを使うということです。温暖化の問題でも、産業革命以前との比較がされますけれども、人間が豊かになったのは産業革命ですけれども、これはやっぱり石炭を使い出したという、エネルギーを使ったということが豊かになったポイントだったわけで、飢餓の問題を解決するためには、化石燃料の使用量がどうしても増えちゃうということになります。
一方で、たぶん2番目の危機は地球温暖化だと思っております。その産業革命以前に比べて2℃以上地球の温度が上がってしまうと、もう元に戻れない。パリ協定だと、できれば1.5℃内に上昇幅を抑えたいと、こういうふうに言っているわけですね。こちらは解決策として当然、化石燃料の使用を抑制しなければいけないと。この1番目の危機と2番目の危機の答えが全く逆で矛盾するというところが今人類が抱えている最大の問題だと思っております。
それを解決するとなると2つしか方法がなくて、1つは省エネルギー、同じ経済価値を引き出すにしても、使うエネルギーを減らすというやり方です。少し前の統計になりますけれども、日本のGDPの1単位をつくり出すのに必要なエネルギーの分量は、ロシアに比べると16分の1だというような、世界と比べても3分の1というふうに言われています。ということは、日本のような省エネ水準に諸外国がなると、かなり豊かになってもCO2は余り出ないということが可能になるということで、この省エネというのは、やはり1つ大きな武器になり得るのではないかと思います。
それから、もう1つはエネルギーをつくるとき、特に電気をつくるときに二酸化炭素を出さないようなゼロエミッションのエネルギー源をたくさん使用してくると、こういうことになりまして、その場合、1番有効なのは再生可能エネルギーということになりますが、再生可能エネルギーには、いろいろ弱点があります。その弱点を実は水素が補うことができると、そういうことにもなると思いますので、いずれにしてもこの2つの大きな危機を解決するためには、省エネと再生エネルギーというのが大きなポイントになると思います。そのいずれにも水素は貢献できるというところが重要だと思います。
現在、政府が持っていますエネルギーミックス、私自身はいろいろ問題点があると思いますが、ただそこにでも省エネが既に組み込まれています。再生可能エネルギー発電、原子力発電、火力発電に続く第4の電源として、事実上17%ぐらいが節電、1次エネルギーでいくと13%ぐらいの省エネというのが組み込まれていまして、この省エネは第4の電源だと言っていいと思います。
その上で、省エネを進めていく上で、日本は省エネ先進国だと言われていますが、エネルギー使用は、大きく言いまして3つの部門、民生部門と運輸部門と産業部門がありますが、日本が先進国だと言えるのは産業部門でありまして、運輸部門と民生部門にはまだ余地があります。その民政部門で非常に大事なのは、断熱性を高めたりする建物ですけれども、そこに例えば定置型の燃料電池、エネファームなんかがうまく入りますと、熱と電気の同時使用ということができまして、これ省エネに非常に大きく貢献するということになります。
運輸部門は、日本はハイブリッドの後、かなり世界先進国になりつつありますが、まだまだやれる余地がありまして、電気自動車、燃料電池車、ともにやはり、これから可能性があるというふうに思います。
それから、再生可能エネルギーなんですが、これは、京都府も非常に熱心に取り組まれているとお聞きしておりますけれども、再生可能エネルギーには、実は2つのタイプがあるということを見ておく必要があると思います。
タイプAと書きましたのは、地熱・水力・バイオマスで、これはある意味でいうと、たちのいいといいますか、出力変動も余りありませんし、稼働率も高いものでありまして、系統に対する負荷も弱い。ただし、いろいろそれぞれボトルネックがあります。例えば地熱は、日本は実はアメリカ、インドネシアに続いて世界3番目の地熱のポテンシャルがある国なんですが、地熱可能なエリアが国立公園、国定公園の内部ないし近くにあるということで、環境規制との整合性という問題があります。例えば環境アセスメントをどれぐらい緩和するのかという問題が残ります。
それから、もう1つ、日本固有の現象としては、温泉産業というのが非常に重要な産業としてありまして、今、日本に20数ヶ所地熱発電所があって、これで温泉が枯れたという事例は報告されていないわけですが、掘る深さが違うので、温泉業者の方にとっては、死活問題なので強い反対運動が起こりがちであります。よって、地熱を進めるためには、例えば別府の杉乃井ホテルとか霧島国際ホテルのように、温泉業者みずからが地熱発電を行うとか、それから大分の滝上という地熱発電所でやっていますけれども、使い終わって温かい蒸気を地中に戻すわけですが、それを地元の方に事実上、ただで配るというような地元対策とかというようなきめの細かい対策が必要になると思います。
次に、水力ですが、電力会社は、ほぼやり切りました。ということで、ポテンシャルが残っているのは水道用水と農業用水ということになります。今の日本の技術ですと2mの落差があると発電できると言われていますが、この水道用水、農業用水とも当然のことながら非常に強い規制がかかっていますので、ここも規制緩和がどうなるのかというのが問題だと思います。
それから、3番目はバイオマスです。これはかなり進んできておりますが、象徴的なことは、例えば、バイオマスの発電で使う木質のチップないしヤシガラというのが外国から輸入されているケースが多い。例えば、関電の舞鶴の発電所でもそういうふうになっているわけですね。その1つの背景に、日本の林業が大分傷んじゃいまして、林業組合が弱いところでは、非常に間伐材を使うためには物流コストが高くなってしまうということがあります。私は、例えば中国電力の火力発電所のほうですけれども、地元の間伐材を使っていますので、関電もそういうふうにしたほうがいいんじゃないかなと前々から申しておりますが、要するに林業組合が強いところはバイオマス、地元のものが使えるんだけれども、そうでないところは輸入材だというその辺がバイオマスの問題点であります。
問題はタイプBなんですね。残念ながらタイプAは筋がいいんですけれども、伸び代が余りないわけです。それに比べましてタイプBの風力・太陽光というのはどんどん今、安くなっていまして、実は余り報道されていないんですけれども、エネルギーミックスを決めた2015年のときのコスト等検証委員会でも、2030年の発電コストの下限値でいいますと、1番安いのは原発となっていましたけれども、2番目は石炭ではなくて太陽光だというぐらいの数字がもう出ているわけでありまして、そこが問題であります。そこのときに問題になるのが固定価格買い取り制度で、この負担が非常に重たいと。ただし、我々は2030年を考えるんですから、そうだとすると、そもそもFIT[※Feed-in Tariff:再生可能エネルギーの固定価格買取制度]なんかがあって、下駄を履かせるような状況じゃだめで、下駄なしで市場ベースでどう再生を入れるかというのが大事だと思うんですね。
そうすると、FITで考えますと、ドイツやスペインを見ますけれども、FITなしで既にかなり風力や太陽光が入っているエリアがあるわけです。アメリカの中西部ですとか、オーストラリアの西部だとか、中国の内陸部、これ中国は断トツの風力大国ですから。それから、ヨーロッパでいうと北欧ですね。共通点は送電線がしっかりしているか、送電線がなくてもいい仕組みがあるかということがポイントになります。
その送電線がなくてもいい仕組みのところで水素というのが浮かび上がってきまして、例えば風力発電で余ってしまって送電線に乗せ切れない電気を使って水の電気分解を行って、水素を使ってそれをガスのパイプラインに入れ込んで、そのまま家庭用で使うと、発電の工場でも使うというのがこれがヨーロッパで行われています「パワー・トゥ・ガス」というような考え方でありまして、その再生可能エネルギーが持っている弱点を非常に出力変動があるだとか、稼働率が出るときは物すごく高くなって、そうでないときは下がるというような弱点をこの水素が平準化するというような役割を果たしていると、そういう意味ではここでも水素が出てくると思います。
強調したいのは、それだけではなくて、意外なことに化石燃料と水素が結びつくということであります。例えば今、川崎重工が具体的に考えていますのは、オーストラリアのメルボルンのビクトリア州へ行きますと大地が真っ茶色で、それ全部褐炭なんですけれども、ほとんど使われていません。北のほうの州の黒い石炭はがんがん使われているわけですけれども、ということで、その褐炭を使って石炭火力発電を行い、あるいは肥料の工場なんかをつくって、残った二酸化炭素を日本と違いましてCCS[※Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留技術]、つまり二酸化炭素を分離して貯蔵する場所はオーストラリアにはあるわけですね。そこで埋めて、その残った水素を日本に持ってくるというようなこういうプロジェクト、つまり石炭利用と水素が結びついているわけです。
その水素がやってきて何に使う、本当に水素社会というものを実現するためには、実は燃料電池だけではだめなんですね。今、国の目標、エネファーム、2030年までに530万台とか、燃料電池車の目標もありますけれども、これが全部本当に実現したとして、電源ミックスの中での水素の割合は2%にしか過ぎません。1次エネルギーミックスでいうと1%にしか過ぎません。これが本当にがっと数字が上がってボリュームが出るためには水素発電が始まらなければいけないわけですが、実際問題としては電力業界やコストの問題もあって非常に消極的でありまして、水素発電というものが可能になる条件があるとすると、石炭火力を使い続けるためにはどうしても二酸化炭素の排出規制の問題があると、ということで石炭火力をもう一歩進めてガス化して、そのガスの中に水素をまぜるというやり方で石炭火力を使い続けるという道が今後、これはIGCCというふうに、石炭ガス化複合発電というわけですが、そのときにやっぱり水素を使うというような話が出てくるのではないかと思います。
現状では例えば中国電力とJ-POWERが広島県の大崎クールジェンで行っていますIGCC、あるいは勿来でも既にIGCCが動いていますけれども、そういう意味で、ある意味で石炭の未来を開く上で水素が必要になってくるというようなこういうつながり方があるのではないかと思います。
それから、水素を持ってくる供給源として、かなり産油国が大きくなると思うんですが、そこでは日本のCCSの技術を使って、油田というのは埋蔵量の3割ぐらいしか回収できなくて、あと7割は残っているわけで、二酸化炭素を注入すると、押すことによって石油をさらに増産することができると、これがEORという技術なんですけれども、そのEORと結びついて、そこでCCSをやって水素を日本に持ってくるというような考え方もあります。
あるいは、実際にはコンビナートにたくさん水素がありますし、千代田化工なんかは川崎重工と違いまして、常温の今あるタンカーでトルエンとまぜて水素を運んでくるというような技術を持っているわけですが、それを最後にまた水素に戻すときにどうしても400℃の熱が必要でありまして、これはコンビナートの中でないと得られないということで、コンビナートと水素というのが結びつくと。つまり化石燃料と水素が結びつくというような道もいろいろあるんだと、ここがすごく大事なのではないかと思います。
ただ、水素、水素と言っても、はっきり申し上げまして、やっぱり大きく誤解があると思いますので、整理しておきたいと思います。
まず、無条件に地球にやさしいわけではないと。先ほど申しました、生成時にCO2を出しているかどうかをチェックする必要があるということです。
それから、よく地球上に無尽蔵に水素があるといいますが、正確には地球上に無尽蔵にあるのは水でありまして、それを電気分解しなければいけないわけです。電気というのは2次エネルギーですから、水の電気分解で水素をつくった場合には3次エネルギーになるわけで、かなりいろいろな意味で無駄がありますので、例えば余ったら捨てちゃう再生風力の電気じゃないと、余り経済性がとれないとかというそういう条件があるということを見なければいけないと思います。
それから、日本は燃料電池では世界最新です。エネファームの固定型の燃料電池、2009年には、世界に先駆けて市販化しました。それから、2014年にトヨタの「MIRAI」、あるいはホンダの「クラリティFC」というのが市販された、これも世界最先端です。ただし、先ほど言いましたように、水素インフラという点では日本はむしろ欧米より遅れています。欧米のほうが既に量産効果が進んでいまして、水素ステーションをつくるのにもヨーロッパでは大体2億円と言われていますが、日本では5億円と言われています。規制の問題も非常にありますけれども、量産効果が効いていないというのが1つのポイントだと思います。
それから4番目に、水素社会の到来が近いわけではありません。先ほど言いましたように、燃料電池だけではそれほどボリュームが出なくて、本当に水素社会と呼べるような時代が来るためには水素発電というのが必要だと思いますが、これはなかなか率直に申して進んでいないというのが現実でありまして、やや電力業界、どちらかというと蓄電池、あるいはアンモニアというような方向を志向しているというのが実際のところだと思います。
ということで、水素社会実現には幾つかの課題があります。
1つはやはりコストの問題であります。どうしても高いということであります。高いためには、私は2つアプローチが必要だと思っていまして、どこかでやっぱり量産ステージに持っていかないとコストが下がらないと思うので、その量産ステージまでは生成段階でCO2を出す水素でも構わないのではないかと。副生水素を使いながら、ある程度水素ステーションだとか水素インフラを整えていって、それでその後、その先に再生エネルギーと結びつけていくというような長期計画の中で当初は副生水素も使うというようなアプローチが1つ必要なのではないかと思います。
それから2つ目は、水素の弱点は高いこと、水素のいいところは環境にやさしいこと、これと逆のもの、安いけれども環境に悪い、その最たるものは石炭ですけれども、先ほど結びつけ方のアイデアを幾つか申しましたが、こういう他のエネルギーと結びつけることによって、お互いのいいところどりをするようなうまいプロジェクトをつくって水素を生かしていくと。ですから、もちろん燃料電池車だとか、そういうアプローチも非常に大事だとは思いますけれども、私はやはり舞鶴に石炭火力があるわけでありまして、そこにどう水素を絡ませていくのかなんていうことは、本来は考えるべき問題なのではないかと、こういうふうに思っております。
それから、2番目です。やはり社会的受容性の問題は大きいと思います。ヨーロッパに行きまして、日本では水素に対していろいろ懸念があると、福島第一原発も水素爆発だったし、近くの国で水素爆弾をつくっていると言っている国もあるわけですし、日本ではやっぱり水素の安全性に対してはかなり懸念があると言ったら、ヨーロッパの人はちょっと怪訝な顔をしていまして、いや、日本でもそうだったと思うけれども、ヨーロッパは昔、都市ガスは石炭からつくっていて、当時はそこに水素を混ぜていたと、日本もそうなんですけれども、だから昔の都市ガスはポッとついた感じがあったと思うんですが、なのに何で心配するんだと言われましたけれども、やっぱり日本はちょっと特有の現象があると思うんですね。余計なことかもしれませんけれども、福島第一の水素爆発は、あれは水素が爆発したことは間違いないんですけれども、抜くことができなかったのは中に放射能が入っていたからでありまして、やっぱりあくまで放射能の問題だということです。
少し水素の安全管理、難しいところがありまして、基本的には漏れないようにするということがすごく大事なんです。ただし、漏れちゃったら、今度は狭い空間にたまらないようにすると、外に開放した瞬間にすっと抜けますので、漏れないこととたまらないことを両立させるということが簡単にいいますと水素の安全の大きなポイントになると思いますが、そういうことを丁寧に説明するというか、丁寧に実行していく、安全と安心をつくることが必要なのではないかと思います。
いずれにしても大事なことは水素村をつくらないということです。水素がいいんだ、いいんだという話になって、水素を、日本のエネルギー問題の非常に寂しいところは、原子力村というのは御存じのようにありますが、率直に申しまして、一方で太陽光村も風力村も天然ガス村も石炭村も石油村もあるような気がするんですよね。学者も含めまして、あるエネルギーを応援する人たちは他のエネルギーをよく否定しにかかるんですけれども、日本のような資源国がそんなことをやっていちゃだめで、あらゆるエネルギーが大事でして、それぞれのいいところと悪いところを押さえながら、どう組み合わせるかというのが大事だと思いますので、水素は徹底的にやっぱり情報公開を行っていくと。
水素というものは非常に大きな特徴は、世界で見ても地方で利用するというパターンになっています。例えばベルリンの空港の水素化だとか、ハンブルクの水素船だとか、日本だと今、水素化という意味では関空が一番進んでいますけれども、大体愛知県が水素ステーションは一番多いだとか、水素バスだと東京都の取り組みがあるだとかというような形で、それからカリフォルニアは一方でEVのテスラがありますので、EVの王国のように思われていますが、水素インフラも非常に整っています。何で使っているかというとフォークリフトなんですね。アメリカだと24時間365日使える倉庫があって、化石燃料系だと労働者の健康にも悪いということでEVに切りかえたわけですけれども、EVは充填に物すごく時間がかかります。24時間365日の競争力が失われるということで、充填があっという間に済むFCフォークリフトへの切りかえがどんどん進んでいって、カリフォルニアはEVもFCの燃料電池も両方フロンティアだというところが非常に大きな特徴なのではないかと、こういうふうに思っています。そういう意味で、水素村をつくらないで、地方の取り組みですから、住民に全ての情報をオープンにしていくということが特に社会的受容性を考える上で大事だと思います。
それから、実際、小さなようで大きな問題がサプライチェーンの一斉立ち上げというのが非常に大事であります。昔から水素をめぐっては、鶏と卵問題というのがありました。燃料電池車をつくろうとしても水素ステーションがない。水素ステーションをつくろうとしても燃料電池車がないということで、なかなか進まなかったわけです。そのときに八王子の水素ステーションをやられているある方が言い出して、その後、トヨタなんかもよく引用していますけれども、鶏と卵をやめようじゃないかと、花とミツバチでいこうと、せえので同時に立ち上げるということが大事だと、こういう話になりまして、そこで自治体の役割が重要になるんですね。ある程度、水素ステーションと燃料電池車を同時に立ち上げないと事が進まないというその花とミツバチ的なサプライチェーンの一斉立ち上げというのも、また水素を実現していく上では大きな課題になると思います。
東京都ではいろいろ計画を立てていますが、東京都のプランの1番中心は2番目のところに書いてあります燃料電池バス100台をせえので一斉立ち上げという意味では、東京はオリンピック・パラリンピックというのがあるので非常にいいわけですね。ただ、本当を言いますと水素の今のスケジュールからいくと2020年はちょっと早過ぎまして、2025年のほうがかなりもうちょっと大きなことができそうなので、もし大阪万博みたいなものがありますと、関西のほうが実は非常にフロンティアになる可能性は十分あるんじゃないかと私は思っています。東京はこのバスが中心です。
それから、もう1つは東京の場合にはオリンピック・パラリンピックとあわせて、選手村の水素化ということでパイプラインを通してエネファームを広げていくという動きがありますが、誤解されていますけれども、2020年の時点ではこれは余りまだ進んでいなくて、まち開きが行われるのは2022年、オリパラが終わった後だということであります。
四大都市を中心にかなり水素ステーションも建ってきたんですが、私、注目していますのは山口県の周南市です。一言で言いますと、フォークリフトを日本で1番最初に始めました。たった1台しかないんですが、どこに水素ステーションをつくったかというと、まちの食品卸売市場で、水素ステーションは70MPa(メガパスカル)の蛇口と35MPaの蛇口があって、こちらは「クラリティFC」だとか「MIRAI」用ですけれども、70のほうは、35はフォークリフト用ということで、この使い方が今後広がっていく可能性があると思います。
私は燃料電池車を広げることには全く賛成なんですが、やはり700万円台のお金なので、補助金についても400万円台なので、やはりお金持ちしか買えないわけでありまして、利用形態をやっぱり考える必要があって、フォークリフトですとか、周南ではもう今考えていますけれども、ごみ収集車のFC化だとか、あるいはフランスでは郵便車のFC化、フランスはさらにFCとEVのハイブリッドというようなものも考えているみたいですけれども、そういう公共の車、その辺のところで使っていくということのアイデアを与えてくれているのがここのフォークリフトだと思います。
ほかの自治体でも、北九州が一番先進ですけれども、これは水素のパイプラインを小規模ですが引きました。ただし、隣に製鉄所があるという条件、それからもともと製鉄所の土地を売ってそこに住宅が入ってきたということで配電線がコミュニティのものだという特殊な事情があるというのを1つ聞いています。
それから、川崎は今度、オリンピック・パラリンピックのときにブルネイから水素を持ってきまして、それを東亜石油の火力発電所で水素発電を行うということを考えています。
神戸市も同じように、こっちが川崎重工が水素を持ってきまして、神戸のポートアイランドの中で小規模ですが水素発電をやるということを考えていますし、関空は先ほど言ったFCフォークリフトというようなことを始めようとしています。
愛知県は今、水素ステーションの密度では多分全国で東京を上回って1番だと思います。
それから、弘前市は下水処理場から出ます排ガス、メタンガス、ここから水素を使おうということで、こういう再生可能エネルギーと水素を結びつけようというアイデアは弘前だけではなくていろいろなところでたくさんこれから始まろうとしています。
それから、南相馬市、被災地ですけれども、ここら辺は地元のガス会社の人がまちの復興の象徴として水素ステーションでは大き過ぎるので、ホンダの小規模なスマート水素ステーション(SHS)というのを入れて水素化に取り組もうとしているということで、いずれにしてもこういう自治体ベースで事が進んでいくというのが水素の特徴だと思いますので、住民とともに水素の利用を広げていくという情報公開が決定的に重要なのではないかと思います。
以上で私の話を終わらせていただきます。
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◯島田委員 きょうはありがとうございます。
デメリットもメリットもそれぞれきちっとお話をいただいて、そして特に水素をめぐる4つの誤解ということでわかりやすくお話をいただきました。エコということで、水素がエコでクリーンなエネルギーと思いがちだけれども、そのもとの電気が石炭関連であったりいろいろするわけですけれども、もともと水素が自然界に存在をしないと、単体で存在できないので、使える水素をつくるためにエネルギーが必要で、そのエネルギーが再生可能エネルギーならクリーンだからよいというそういう理屈ですけれども、しかし水や炭素化合物から水素を取り出して、そしてその水素を使った燃料電池で電気に変える複雑な工程を経たときに、再生可能エネルギーを直接電気に変えるほうがよっぽど効率的ではないかと、こういう御意見などもありますね。だから、そこでまたロスが生まれていくということで、どんどん技術は発展していきますので、そういうコスト面もカバーできるような先生の御提案もいろいろありますけれども、しかし総合的な効率を考えるとどうなのかなと、現時点でですね。この点と、それから石炭燃料が枯渇をするというのが当初の始まりだったんですが、この辺の見通しなんかはどういう御見解でしょうか。
◯橘川参考人 まず、全くおっしゃるとおりで、再生エネルギーはそのまま電気で使うのがいいに決まっています。それを最大限やるべきだと思いますが、そうできない場合に水素の出番があると。ヨーロッパでも、要するにデンマークなんて需要が下がる休みの日で風が吹いた日は需要の200%も発電しちゃったりなんかするわけですね。そういうときに水の電気分解を使うというようなことがあるわけで、ただ日本でもそういうことは大いにあり得ると思います、今後は。実際に九州なんかだと太陽光発電を送電線に乗せ切れなかったりなんかした場合に、そういうときに例えば、水素を使うとかということがあると思うので、そこはやっぱり限定的に使うということになる。再生エネはまずは電気でそのまま直で使うのが1番いいと思います。
余計な話ですが、直で使うためには、地元で使えるようになるのが1番なんですが、そのためにはやっぱり今の低圧の託送料が高過ぎると思います。kWhが9円で、オンザルーフで太陽光発電をやって隣に余ったものを売ろうとしても9円かかっちゃいます。今、大体電気料金はkWh23円なので、9円となると売ることができないぐらいの高さなので、これは諸外国に比べるとべらぼうに高いので、これがぐっと下がりますと、再生エネルギーを地元で使えるというスマートコミュニティ的なものが進む、もちろん九州の東田に送電線を持つことができればもっと進みますけれども、そういう状況の中なので、再生エネがなかなか地元で使い切れないので、日本の場合には特に余ってくる再生エネというものの比率は高そうな気がしますので、水素の出番は出てくるのではないかと思います。
それから、石炭の枯渇という話は、今自体は余り問題ではなく、そもそも石炭が石油や天然ガスに比べますと埋蔵量からいくとかなりあるということがありまして、枯渇の話はそれほど大きな問題にはなっていないような気がいたします。
◯島田委員 ありがとうございます。
需要と供給の両面でがっとやらないと、一体的にやらないとなかなか実現は遠いというお話でしたが、まずは自治体でということですが、しかし財政難の折に、その高級車を買うお金持ちの人にたくさんの税金を導入して、それでいいのかなと。
それから、水素ステーションも先ほどヨーロッパでは2億円が日本では5億円ですか。やっぱり狭い国土の中で、あるいは住宅密集地の中では、なかなか安全性を確保するためにステーションと住宅地の距離も置かなければいけないとか、いろいろハードルがあるのかなと思うんですが、その点、どうでしょうか。
◯高屋エネルギー政策課長 まずは規制に関して言うと、確かにそれはヨーロッパでも住宅との距離は同じなわけでありまして、欧米と比べますと、やっぱりやや日本の規制が強過ぎるところはあると、そこは国際基準と調整の余地はあると思います。
それから、先ほど言われた点なんですが、水素というのは、1番の可能性はいろいろな可能性が将来秘めているということなのでありまして、当面そういうものの可能性を断っちゃっていいのかどうかということなんですね。そこで、しかし財政難であって、自治体として住民に対する説明責任ということを考えますと、私はアプローチとしては公共性の高い使い方ということを考えたほうがよくて、使い方先進地域に、もし京都が目指すならば、公共的なアプローチというのが一つあるのではないかなと、個人的な意見ですけれども思います。
◯島田委員 水素村をつくらないと、あくまでも住民にも説明責任を果たして公共的な分野でというその御意見はそのとおりだし、閉ざしてはいけないということで、どんどんと発展をしていきますので、その点は理解をいたしました。ありがとうございます。