北陸新幹線延伸“待った” 南丹市美山町田歌区 環境アセスメント受入れ“拒否”――京都民報2020年10月18日

 北陸新幹線の延伸(敦賀―新大阪)をめぐり、ルート上にある南丹市美山町の自治組織が環境影響調査(環境アセスメント)の受け入れ拒否を決議し、現行ルートに「待った」をかける事態となっています。また、同町や京都市右京区京北では住民グループが結成され、
「生活・自然環境への影響について住民が向き合って、考えていこう」
という動きも広がっています。 [by 黒岩有斐]

 「環境影響評価の受け入れを当面見合わせます。」
――南丹市美山町田歌区(28世帯)は9月29日付で、建設を担う独立行政法人『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』に対して、区民の総意で決定した決議書を送付しました。同区では今後、環境アセスメントの本調査が始まる予定となっています。
 同区は京都丹波高原国定公園内にあり、芦生原生林と「かやぶきの里」の間に位置した山間部の集落です。
 決議書では、受け入れを拒否する理由として
「他に代替案がなく、環境アセスメントは建設が前提である」
「北海道新幹線の工事で有害残土の処分問題が発生しており、同様の問題が起きかねない」
「長期にわたる工事は、国定公園を台無しにし、観光産業を脅かす危険性が大きい」
などを挙げています。
 その上で、環境アセスメント調査の関係者の区民所有地への立ち入りや、調査に関連して個別に区民と直接交渉することを禁止するとしました。
 また、指摘した問題点について南丹市と京都府に対し公開質問状を提出する予定です。
 田歌区の長野宇規区長は、北陸新幹線延伸計画について「集落の存続に関わる問題」と語ります。区長を含めて16世帯がIターンだといい、現在の環境が変わってしまえばIターンの希望者が減少してしまうと危惧しています。
 田歌区の集落や周辺地域は、脱化石燃料時代において活用できる豊かな森林資源が存在するとともに、テレワークの普及で豊かな自然環境で暮らしたいというニーズが高まっているとして、
「未来の可能性がある地域だと思っている。そこを犠牲にすることは間違っている」
と話しています。
 また、国交省の試算で、費用対効果のより高い他ルートではなく、現ルートが選定されたことについて、
「合理的な説明がないと納得できない」
と訴えています。

 

住民グループが要望し説明会開催 残土処理・地下水・工事車両…右京区京北 納得いく説明求めたい

 南丹市美山町や京都市右京区京北では、今年に入ってから、長期の北陸新幹線延伸工事に伴う地域への影響について「住民同士で考えよう」と住民グループが結成されています。
 美山町では、ルート上に想定される田歌・江和の30代から50代の住民らを中心に
知井の新幹線問題を考える有志の会」
がつくられています。
 同会は、これまで公開勉強会を2回開催。メンバーが他の新幹線工事における問題点や生活の影響などについて調べ、発表しています。
 メンバーの金谷集子さんは、
「調べる中で有害残土問題が起きていることも知りました。小学生の子どもがおり、工事でダンプが行き交うことへの不安もあります」
と語ります。
 また、美山町は各地に残された豊かな自然が魅力であると語り、
「新幹線が通ると美山の自然が台無しになってしまうのではないか」
と話しています。

初の説明会で疑問の声続々

 「大量のダンプカーが何年も通るのか」「(アセス結果によっては)中止を含めた代替案はあるのか」――。10月7日夜、右京区京北で『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』が開いた環境アセスメントに関する住民説明会では、工事の影響や北陸新幹線延伸の必要性を問う意見が相次ぎました。
 説明会は、住民グループ「京北に新幹線が通る!?を理解する会」が、京北では1度も開かれていないことを受け、署名442人分を提出するなどして要求し、実現しました。
 参加した住民は、
「ルートが詳細に決まらないと答えられないというような回答が目立ち、不安を解消することはできなかった」
と語っていました。
 京北は、ルート上に想定され、一部が国定公園に指定されています。今後、環境アセスメントが開始される予定です。
 同「理解する会」メンバーの女性は、
「住民に対して計画内容や工事概要が十分に周知されていない。残土問題、地下水源への影響、大量の工事車両など、予想される生活・自然環境への影響について、住民間で考えて議論してきたし、もっと広げたい。機構にも納得いく説明を求めていきたい」
と話しています。
 同「理解する会」ではこれまで、4度の公開勉強会を開くとともに、計画や工事の概要について伝えるビラを全戸配布しています。

 

豊かな山と自然、次世代に 自然壊す大型開発中止を 京都労山 ルート変更求め署名呼びかけ

 京都府勤労者山岳連盟(京都労山)は、このほど北陸新幹線延伸のルート変更などを求める要望署名に取り組んでいます。署名活動とともに学習会を開催し、
「京都の山と自然環境を次世代に引き継ぐため、計画の見直しを」
と呼びかけています。
 署名は、独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構に対し、京都丹波高原国定公園を縦断する現ルートは、自然環境への影響が大きく環境破壊の懸念があるとし、現行ルート計画の見直し・再検討を要望。また、自然環境への影響が明らかになった場合は、計画の凍結・見直しを求めています。
 署名活動は2020年3月の定期総会で取り組むことが確認され、現在1,029人分が集まっています。京都労山のメンバーだけでなく、幅広い個人、団体に署名を呼びかけています。10月末が第1次締め切りですが、11月以降も引き続き取り組む予定です。
 2019年9月には京都労山自然保護委員会が、芦生山の家ガイドで写真家の広瀬慎也さんを講師に招いた学習会を開催し、2020年10月14日にも学習会を行いました。
 自然保護委員会の平尾繁和委員長は、自身が芦生で撮影した植物の写真を労山の全国自然保護講座で紹介し、署名を呼びかけています。署名について、
「全国的に、北陸新幹線だけでなく、リニア中央新幹線など自然破壊の大型開発が相次いています。各地の労山が建設見直しを求める取り組みを広げているなか、京都でも、この問題を知ってもらい、多くの人に署名してほしい」
と話しています。

 署名は、京都労山のホームページ[http://www.dab.hi-ho.ne.jp/kyouto-rozan/]でダウンロードできます。問い合わせは京都労山
FAX:075-315-7039
E-Mail:kyoto_waf260@dab.hi-ho.ne.jp