騒音 各地で基準値超え 窓開けて寝られない/補償1,300件超
最高81dB記録「雷のような音」
北陸新幹線開通後、新幹線の騒音に住民が苦しめられています。建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構によると、長野―金沢間で騒音測定した地域51ヶ所(2016年度)のうち、約67%の34ヶ所で住宅地70dB[デシベル]以下という環境基準をオーバーしていることが分かりました。
騒音対策として鉄道・運輸機構は、エアコン設置や二重窓などの対策工事をしており、補償件数は1,321件にのぼることが分かりました。
区間内で最も高い81dBを記録した、石川県津幡町の明神トンネル付近。明神地区の住民らがエアコン設置や二重窓の補修工事を受けたといいます。
この地区に住む女性は、
「雷のような“ゴー”という音で、窓を開けるとテレビの音も聞こえない。今は窓を閉めればマシですが、開けたまま寝ると音で目が覚めてしまう。クーラーのいらない自然豊かな地域なのに、窓を開けて寝られなくなってしまった」
と嘆きます。
富山県では2016年度調査で住宅地24ヶ所のうち71%の17ヶ所で基準を超えました。
県担当者も驚く状況に
富山県環境保全課は
「そもそも開通時に基準値内に収めるよう努力するはずだったのに多くの地点で達成されておらず驚かされた」
とし、防音壁のかさ上げなどの音源対策や、それでもカバーできない家屋の防音対策を急ぐよう、鉄道・運輸機構に要望しました。
富山県小矢部市野端地区では2015年度調査で76dB、2016年度調査でも74dBと県内最高地を記録。同地域に住む八尾三紀夫さん(76)は、ペアガラスで騒音対策をしていましたが、新幹線のトンネル突入・脱出時に騒音がするため、鉄道・運輸機構がクーラー設置費を補償しました。
射水市本開発地区は70dBと基準値内ですが、同地区の男性は
「もともと静かだったところ。夏の夜は窓を開けて寝ていたが、それができなくなった。平均で基準内と言われても超えている時もあり、対策されないのはおかしい」
と憤ります。
新潟県では、2016年度の調査で9地点中6地点で基準を超過。糸魚川市能生地区では、トンネル付近の住宅を中心に基準値超えの騒音が発生。橋立清和さん(65)は、
「車両がトンネル内の空気を押し出すことで、ドッという衝撃音とともに振動もある」
と被害の様子を語ります。また、
「工事中もコンクリートの打ち込み音などがうるさく、夜間も灯光器による明かりがすごかった」
と振り返ります。
鉄道・運輸機構の補償で自宅外壁を防音素材に張り替えたという昼渕恒雄さん(79)は、
「壁を替えても効果は感じない。機構は、防音効果を検証に来ることも無く放ったらかしだ。新幹線はほとんど使うこともないので、開通によって利便性が向上したというより生活が脅かされたという気持ちだ」
と語ります。
また、同地区では新幹線の高架に日光が遮られることにより、住宅や農地に影ができる被害も発生。前出の橋立さんの自宅も玄関付近が日影となり、冬場に雪が溶けにくくなりました。
「金銭補償を受けているが、冬場は1m以上の積雪がある地域、雪解けが悪いと大変困る」
と語ります。
安倍政権下で計画が“加速” 総工費2.1兆円 住民不在、財政圧迫
総工費2兆1000億円が見込まれる北陸新幹線延伸(敦賀―大阪ルート)は、安倍政権のもとで計画が“加速”しました。
「延伸」計画のおおもとには、安倍政権が2014年4月に「国土強靭化法」を成立させて大型公共事業を「成長戦略」の柱に位置づけ、同年7月に策定した「国土のグランドデザイン2050」で「交通ネットワークの充実による国際競争力の強化」を掲げたことにあります。
また、自民党は2012年の総選挙で、「10年間で200兆円の公共投資を実行」すると公約。2016年夏の参院選公約では、「今後5年間で官民合わせて30兆円」を確保し、これをリニア中央新幹線や北陸新幹線延伸など大型開発事業に充当するとしています。
こうしたバラマキ路線のもと、自民党議員や山田啓二京都府知事、各地の首長らが北陸新幹線誘致同盟などを結成し、南部や北部で“ルート誘致合戦”が繰り広げられました。
日本共産党京都府委員会は、2016年12月に発表した延伸計画に対する「第3次見解」で、安倍政権のもとでの誘致合戦について、「利益誘導型政治」「無謀で杜撰、地域経済の発展にもつながらない、ムダ使い計画であることがハッキリした」と批判。莫大な財政負担と地方の衰退に一層の拍車をかける延伸計画の中止・撤回を求めています。
グラウンドが陥没、人いれば大惨事に 福井県あらわ市トンネル工事が原因
福井県敦賀市への延伸に伴う、福井県あらわ市の「柿原トンネル」工事現場で、2017年9月8日、掘削されたトンネル壁面が崩落し、あらわ市のグラウンドが陥没する事故が起こりました。日本共産党福井県委員会や住民団体が福井県に対し、原因究明や安全対策などを求めています。
同日午前5時45分ごろにトンネル内部に土砂が流れ込み、真上の「柿原グラウンド」が直径15m、深さ最大約8mにわたって陥没しました。
鉄道・運輸機構によると、トンネル内部は高さ8.4m、横幅9.5mで、トンネル上部から地表までは約14m。崩落時にはトンネル内に作業員が5人いましたが、内側のコンクリートが剥がれ落ちたのに気づき、全員が避難した直後に崩落。怪我人はなかったとしています。柿原トンネルは全長2,530mで2020年3月完成を目指していました。
福井県に安全対策などを申し入れた、「北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」の松原信也代表は、
「少年野球など市民が使うグラウンドでの事故で、人がいれば大変なことになっていた。絶対に許されない事故で、徹底した原因究明が必要。敦賀までの工事はトンネルが多く、住民には不安が広がっている。住民にきちんと説明し、安全対策ができるまで工事を見送るべき」
と話しています。
家屋損傷が続出 富山県射水市 高架工事が影響 機構側は不誠実対応
富山県射水市本開発地区(約130世帯)では、住宅地に隣接する北陸新幹線の高架工事に伴い、家屋損傷の被害が続出しました。
住宅の基礎や外壁、内壁に亀裂などが生じ、雨水が屋内に染み込み、畳が使えなくなるなどの被害も発生しました。
同地域の住民らで「新幹線対策委員会」を結成し、鉄道・運輸機構側と補償額を交渉。鉄道・運輸機構は、工事前の住民説明会では「被害があれば補償する」と話していたにもかかわらず、機構側が当初、住民に示した補償額は被害に見合うものではありませんでした。
山澤智子さん(仮称)宅は、外壁に大きな亀裂が入り、雨水による家屋の損傷が懸念されたため、約230万円かけて改修しました。しかし鉄道・運輸機構側が示した補償額は40万円でした(後に16万円に減額)。
このような鉄道・運輸機構の不誠実な対応に、対策委員会は補償額の引き上げを求め奔走。相談に乗ってくれたのが日本共産党呉西地区委員長の坂本ひろしさん(衆院富山3区候補)。共産党の県議、市議、井上哲士参院議員、藤野保史衆院議員と連携し、交渉した結果、鉄道・運輸機構は住民説明会で謝罪。大幅増額した補償額を被害者に支払うことになりました。前述の山澤さんには210万円が支払われました。
対策委員会責任者だった矢野英治さん(65)は
「機構は最初、被害は補償すると安心させながら、被害が起これば、次々基準を示して値切ってきた。住民の結束が大事。共産党の協力がなかったら泣き寝入りすることになった。京都のみなさんは、機構などとの交渉では、確認点を必ず文書化し、後で騙されないようにしてほしい」
と語ります。
文化財に被害 長野県中野市 住宅ひび、地下水減も
長野県中野市安源寺地区では、北陸新幹線のトンネル工事に伴い、真上の地域などで住宅にヒビや歪みが生じるなどの被害が発生しました。
現場は長野駅―飯山駅間にある高丘トンネル(総延長約7km)。中野市によるとトンネルは2001年12月に着工し、2012年3月に開通。2004年頃から住宅など建物の歪みや傾き、地下水の減水について苦情が寄せられたと言います。鉄道・運輸機構が被害者と個別に交渉し、189棟95戸に補償を行いました。
トンネルの斜め上に位置する小内八幡神社は860年代創建で本殿は1665年に建立され、中野市有形文化財に指定されています。敷地の地面が沈下し、拝殿の畳に段差ができ、門が歪み、土台に隙間やヒビ割れが生じています。また本殿の壁に描かれた唐獅子や松などの絵の塗料の一部も剥落しました。
小内八幡神社宮司は、
「修復工事のために、先祖代々で守ってきた神社から御神体を移動させることになってしまった。被害前の状態に戻すための完全な補償を受けられず、10年間積み立てていた氏子の供出金を使わざるを得なかった」
と話しています。
事故続発、問題山積 地下工事の影響
都心部の地下に高速鉄道のリニア中央新幹線計画が進む愛知県。「リニアを考える愛知県連絡会」の川本正彦代表に地下工事に伴う住民生活への影響について聞きました。
リニアを考える愛知県連絡会 川本正彦さん
リニアは、東京―名古屋間の約9割がトンネルです。北陸新幹線でも小浜―京都ルートをみると山と都心部が多くを占め、京都府内でもかなりの部分がトンネルとなるのではないでしょうか。
近年、国やJRが安全だと主張してきたシールド工法(円筒状の巨大掘削機を使用)のトンネル工事で、首都高速道路の横浜北線工事で横浜市内で14cmの地盤沈下が発生し、圏央道の東京都の高尾山トンネルでの地下水が枯渇するなど事故が多発しています。また長大なトンネル内で事故や地震が起こった場合の避難方法など、課題は山積みしています。
都市部では深さ40m超の「大深度地下」をシールド工法で施工するとしていますが、地盤や地下水への影響が懸念されており、住民への丁寧な説明が求められています。
リニアの地下トンネル工事のために地表に一定の用地が必要とされています。愛知県では、ルート付近の住宅地などの買収に向けた説明会が始まっています。名古屋市とJR東海はリニア計画工事と、名古屋駅の再開発を一体にした用地買収を狙っており、住民側に「土地収用法」(公共事業で地権者の同意が得られない場合の法的手段を規定)をちらつかせるなど、住み続けたいという住民を脅すようなことが始まっています。
リニアをめぐっては、全国で738人が原告となり、2016年5月に東京地裁で「ストップ・リニア! 訴訟」が始まりました。私たちは、環境破壊とともに莫大な建設費投入をストップさせるためにたたかっています。