ルート上に丹波国定公園 ダム建設はね返した歴史も
北陸新幹線の京都への延伸をめぐり、建設工事に伴い貴重な自然が破壊される危険性があると、地元住民らから不安の声が上がっています。政府が決定した「小浜―京都ルート」上に、府内では、広大な天然林を含む京都丹波高原国定公園が広がり、福井県内ではラムサール条約に登録された中池見湿地があります。また、新幹線が既に開通している新潟県では建設工事により飲料水などに使用していた水源が枯れる被害も出ています。
小浜市から南の京都市に向かう「小浜―京都ルート」上には、国内有数の天然林「芦生の森」を含む京都丹波高原国定公園が広がっています。
2016年3月に指定された同公園は、京都市(左京区・右京区)、綾部市、南丹市、京丹波町にまたがる約69,000haの地域です。
公園内の南丹市美山町にある「芦生の森」は、第1種特別地域として開発行為が厳しく制限されています。
「芦生の森」は、由良川源流域に位置し、約4,200haの敷地の内、約2,000haが天然林です。人手が加えられたことがない原生林もあります。植生区分としては、暖温帯と冷温帯の移行帯に位置することから、動植物や昆虫などの種類が多く、「アシウスギ」など地域の名がつけられた学術上貴重な種も多数見られます。京都大学の芦生研究林として、研究や教育目的で管理されています。
「芦生の森」では1950年代に、関西電力による揚水式発電ダム建設が計画されましたが、地域住民が「自然の恵みを活かした地域づくり」を進めると拒否した歴史があります。
公園内の美山町には、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている、独特の形をした茅葺き屋根の民家が並ぶ「かやぶきの里」もあります。京都府のホームページでは、同公園を
「自然と文化が融合した風致が特筆される」
と紹介しています。
工事で水源枯渇 新潟県糸魚川市トンネル開通が影響
新潟県糸魚川市では、北陸新幹線のトンネル工事に伴い、市内の湧き水など20の地下水源が枯れたり、水量が著しく減少する被害が発生しました。
糸魚川市によると、2004年から2007年にかけて糸魚川市能生地区の北陸新幹線・新木浦トンネル近くの湧き水など20の地下水源が枯れるなどしました。新木浦トンネルは2003年に着工し、2009年に貫通したもの。水を使用していた40戸以上が被害を受け、中には簡易水道組合を作り飲水に使っていた集落もあります。
新幹線を建設した鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、トンネル工事による水源への影響を認めた上で、飲用水を市営水道に切り替えた上で、飲用以外は新たな配管・施設建設のための金銭補償を行いました。
希少湿地が危機に 福井県敦賀市 ラムサール条約登録「中池見湿地」
福井県敦賀市にある希少な生態系を持つ湿地も北陸新幹線延伸による環境破壊が懸念されています。
2012年にラムサール条約湿地(国際的に希少で多様な生態系を持つ湿地が対象)に登録された中池見湿地。地下40mの泥炭層が堆積し、60種以上の絶滅危惧種を含む約3,000種の動植物が生息しています。
2022年の開業をめざし建設中の北陸新幹線の金沢―敦賀ルートは、中池見湿地の条約登録範囲の山を貫き、地下水の流れに与える影響が懸念されています。
湿地の保全運動を続ける「ウェットランド中池見」の笹木智恵子理事長の話
世界から注目されている希少な湿地が危機的な状況です。トンネルを掘れば、地下水にどのような影響が出るか分かりません。工事の責任を持つ鉄道運輸機構からも十分な説明はなく「掘ってみないとわからない」状況です。全国で50ヶ所あるラムサール条約湿地の中で、初めての大きな工事が中池見で行われることになります。これが前例になり、開発が各地で進むようなことがあってはなりません。建設中止を求め続けていきます。
芦生を24年間撮り続けている写真家・広瀬慎也さん 工事で自然に大打撃■「奇跡の森」守るべき
芦生の森は、本州の標高1,000m以下の地域では他に例がない広大な天然林です。また、木本植物243種、草本植物532種、カモシカなど本州に生息する哺乳類のほぼすべてが生息し、奇跡のような豊かな自然が残されています。
大事なことは、「森」が幾多の課題を乗り越え守られていることです。揚水ダム計画は地域住民が拒否し、京都大学研究林として開発を免れ、近年はシカの食害への対策が取り組まれています。こうして守られてきた豊かな自然を後世に引き継いでいくべきです。
新幹線は、山間部のため地下トンネルを通るでしょう。しかし、建設車両通行のための道路整備・新設など大規模な地上の工事を伴い、森は大打撃を受けるでしょう。また。由良川の源流となる地下水への影響も懸念されます。芦生の西には、かやぶきの里もあります。この地域は、自然と文化が織りなす景観が魅力でもあり、新幹線は似合いません。
また、優れた自然を保護しようと国定公園に指定した直後に、そこを縦断するようなルートを決定するのは矛盾した政策としか言いようがありません。
このたび、広瀬慎也さんからの御厚意で、昨年・一昨年に広瀬さんが撮影した芦生の森の映像を提供していただきました(著作権は広瀬さんにあります)。ユネスコ世界遺産に指定されている東北地方の白神山地に並ぶとも劣らない、見事な自然の風景をぜひご覧ください。そして、白神山地に比肩する貴重な芦生原生林を破壊しようとする北陸新幹線延伸の大型開発に異議を唱えることを、私たちと一緒に行動していただければ幸いです。