敦賀―新大阪 京都で環境アセス難航 残土など課題も山積
[日刊県民福井 2021年2月18日]
与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)は2月17日、北陸新幹線敦賀−新大阪間の整備に関する委員会の初会合を、東京・永田町で開いた。国土交通省は環境影響評価(アセスメント)について、京都府の一部地域で現地調査が難航していると報告した。大規模地下駅やトンネル掘削に伴う残土処理など、施工上の課題も山積しているとした。 [山本洋児]
整備委は敦賀−新大阪間の2023年度当初着工を目指している。委員長の高木毅衆院議員(福井2区)は会合後、22年末までに着工認可を得たいとした上で「課題は今までの区間よりも重大で広範囲にわたると認識された。次回は環境アセスの状況を掘り下げて聞きたい」と述べた。
この日は国交省が敦賀−新大阪間の整備に向けた課題を整理し、提示した。進行中の環境アセスは、新型コロナウイルスの影響で現地住民向け説明会の開催が難しくなっている。さらに京都丹波高原国定公園にかかる京都府南丹市美山町の住民が地下水などへの影響を不安視。建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)による現地調査の受け入れを拒否している。委員らは府、市と連携して取り組むよう求めたという。
施工上の課題では京都、大阪は都市部のため、駅の構造が大規模かつ複雑になる。工事は地下四十メートルより深い「大深度地下」で進むため、整備新幹線の建設区間としては過去最大規模の残土が発生するとみられ、受け入れ先の確保や運搬方法も課題とした。
着工に必要な5条件のうち、最大の課題は「安定的な財源見通しの確保」になる。この日は具体的な議論に入らなかったが、高木氏は2兆1000億円とされる建設費の精査を含め今後、結論を得たいとした。
敦賀−新大阪間は2017年3月、小浜−京都ルートに正式決定した。4年前後かかる環境アセスは2019年度から本格化し、同年5月末に大まかな駅位置・ルートが公表された。県内と大阪府では現在、現地調査が進められている。
整備委は自民、公明の衆参両議員15人で構成。県関係では高木氏のほか、稲田朋美衆院議員(福井1区)と滝波宏文参院議員(福井選挙区)が名を連ねている。
残土 少なく見積もっても880万立米 北陸新幹線延伸トンネル工事[京都民報2020年11月1日号]
北陸新幹線の延伸計画(敦賀―新大阪間)をめぐり、トンネル工事で発生する残土(掘削発生土)が
「少なく見積もっても880万立方メートル」
に上ると試算されていることが、このほどわかりました。京都府の環境影響評価専門委員が試算したもので、10tダンプ160万台分に相当する量です。同委員は、残土取り扱いの事業計画の必要性も指摘しています。全国的に建設残土の処分が問題になる中、リニア中央新幹線や北海道新幹線延伸工事では、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が処分方法を決めないまま着工するなど、各地で問題となっています。 [by 立花亮]
京都府環境影響評価専門委員が試算 10tダンプ160万台分に相当―処分業者「とてつもない量」
トンネル工事で発生する残土量が試算されたのは初めて。同事業では総延長140kmのうち約8割がトンネル区間になります。これについて、府内の残土処分業者は
「とてつもない量。府内だけでは処分できないのではないか。残土をどうするのかあらかじめ決めておかないと、事業自体が続けられなくなると思う」
と話しています。
試算は、2020年3月に開かれた京都府環境影響評価専門委員会――COVID-19(新型コロナ)対策で傍聴無し――の資料として配布されました。環境影響評価方法書への府知事意見を審議するための会議で、委員の「追加意見」として添付されたもの。同計画について、
「世界的に見ても1、2を争う非常に長いトンネル」
になるとし、試算の結果、
「少なく見積もっても880万立方メートルは発生し、甲子園球場に積み上げると228mの高さに匹敵する」
と指摘。さらに、本事業内での再利用や、他の公共事業等への有効利用等で消費できる量ではないとし、一時保管地の広さも林地開発許可申請が必要な面積に達するとしています。
そして、残土処分の具体的な事業計画が必要だと強調し、
「周辺の環境に及ぼす影響についても調査、予測及び評価をする必要がある」
「土砂災害や、洪水・浸水の観点からも適切な環境影響評価を実施し、周到な防災対策を講じる必要がある」
と述べています。
日本全体での建設残土の搬出量は2018年度で1億3263万立方メートル。このうち9396万立方メートルが内陸で処分されています(国土交通省建設副産物実態調査)。2018年度の京都府内の建設残土は約409万立方メートル(国土交通省建設副産物総括表)で、北陸新幹線延伸工事だけで京都府全体の2年分以上の量となります。
建設主体の鉄道・運輸機構は、環境影響評価方法書で、建設残土について、「環境影響については、方法書以降の手続きで検討」するとし、同事業内での再利用や他の公共事業での有効利用で「適切な処理を図る」としていますが、具体的な事業や用地は明記されていません。
京都府知事が2020年4月に同方法書に対して出した意見では、残土について、発生量・再利用量・運搬・処分などの方法について、詳細を明らかにするよう求めています。
『処分方針なし』は無責任 北陸新幹線延伸 トンネル工事 残土8,800,000立方メートル
リニア中央新幹線の東京―名古屋(2027年開業)間の工事では、総延長430kmのうち9割がトンネルで、自然破壊や水量減少などが問題になっています。同事業の環境影響評価書では、具体的な残土の処分地は示されていません。京都府の同資料でも、環境影響評価専門委員会事務局は「中央新幹線の事例では準備書でも具体的な土の搬出先は記載されていない。また、福井の湿地回避の事例は環境アセスメント手続の後に行われている」(配慮書に対する委員意見などの一覧)と明記しています。
京都府内で最も残土を受け入れてきたのが城陽市東部丘陵地の城陽山砂利採取跡地整備公社です。2019年度の残土受け入れ量は1,226,727立方メートル。同地では、2017年度の1,644,654立方メートルをピークに受け入れ量を減らしています。同公社によると「新名神高速道路やアウトレットモールの開発などにより埋め立てる場所が減りつつある。今後、受け入れ量は減らしていく計画になっている」としています。
リニアは「処分地示さず」着工
北陸新幹線延伸ルート上に想定される南丹市や京都市右京区京北の住民からは、
「残土処理の具体的方針と環境への影響を明確に示すべきだ」
という意見が上がっています。
「試算」住民にも明らかにすべき
南丹市美山町田歌区では、現在のルートでの建設を前提とした環境影響評価の受け入れ拒否を表明しています。
田歌区の長野宇規区長は、残土処理問題について、北海道新幹線の延伸工事で砒素を含む有害残土の処分問題が発生しているとし、
「北海道新幹線では処分先が決まっていない。過去の鉄道建設においても残土処理の問題はうやむやにされてきた。しかし公共工事においてこうしたことは本来許されない。京都府の専門委員の指摘はまったくその通りだ」
と話しています。
また、現ルートでの北陸新幹線延伸計画そのものについて、
「残土問題もあるが、そもそも、費用対効果の高いルートでなく、京都丹波高原国定公園内を通る現ルートが選定された合理的な理由が示されないまま、既成事実として進めることはおかしい」
と語っています。
右京区京北 先月の説明会では「示せない」
同じくルート上に想定される京都市右京区京北の住民グループ『京北に新幹線が通る!?を理解する会』は、残土輸送に大量の大型車両が必要なことや仮置き場の確保などについて懸念を訴えてきました。
メンバーの女性は、2020年10月7日に京北で初めて開かれた鉄道・運輸機構の住民説明会では、想定される残土量の質問に対し、機構側は詳細なルートが決定しないと示せないと答えたと言い、
「住民には具体的なことを知らせずにすまそうという態度だと感じた。京都府の専門委員会で示された試算や指摘があるなら、住民にも情報として明らかにすべきだ」
と不信感を示しました。
また、東京外郭環状道路の大深度地下工事のルート上にある東京都調布市で10月18日、住民街の一角にある道路が陥没した事例を挙げ、
「北陸新幹線も大深度地下工事が想定されており、工事に対する懸念がより強まっている」
と語りました。
北海道新幹線「有害残土」受け入れ住民が反対
鉄道・運輸機構が進めている北海道新幹線延伸計画では、有害物質を含んだ建設残土の処理や受け入れ地をめぐり、住民が反対の声を上げるなど大きな問題になっています。
同計画は、新函館北斗(北斗市)から札幌市へ、約212kmを延伸する計画。そのうち約8割がトンネルで占められ、発生する残土は、約20,000,000立方メートルに及びます。そのうち約6,500,000立方メートル(約3割)が砒素など有害物質を含む「要対策土」となっています。
鉄道・運輸機構は、要対策土の受け入れ地を自治体に依頼・公募し、受け入れ候補地を選定するとしていますが、選定決定過程が不透明なうえ、要対策土には鉛・砒素・カドミウム・水銀・フッ素などが大量に含まれることが判明しています。
工事が進んでいる北斗市では、鉄道・運輸機構が残土を受け入れる予定だった同市八雲町で、砒素などの有害残土を含むことから地元住民が反対し、計画を断念しています。また、同機構が2017年6月に市長の立ち会いのもとで運輸会社との間で残土受け入れの協定書を結びながら、議会に報告しなかったことが判明。2020年7月には議会の全員協議会で市長が陳謝する事態になりました。
日本共産党の前田治 北斗市議は、
「環境アセスメントの時点で、具体的な残土処理計画はありませんでした。機構が有害物質を含む残土の処理計画を立てないまま工事を強行していることに、住民が怒りの声を上げています。札幌への延伸計画は凍結すべきです」
と話しています。
共産党北海道委員会は、札幌延伸計画は有害残土問題の他にも杜撰な需要予測や莫大な建設費用負担、並行在来線問題、自然破壊や騒音問題があるとし、計画の凍結、中止を含めた再検討を求めています。
畑 明郎―日本環境学会元会長、大阪市立大大学院教授―さんに聞く:法規制なく災害要因にも 「立坑」含めればさらに大量に、計画見直しを
京都府の環境影響評価委員会で残土量を
「少なくとも8,800,000立方メートル」
と示されたように、工事ではトンネルと地上を結ぶ立坑を5〜10km間隔で掘るため、さらに大量の残土が出ると考えられます。
リニア中央新幹線の環境影響評価書では、残土処理地などを明記しないまま着工しました。いまだに大半の残土をどこに持っていくのか決まっていません。
全国的にも建設残土をめぐって問題が起こっています。三重県紀北町と尾鷲市では、首都圏・関西などから年間約260,000トン(約143,000立方メートル)もの建設残土が船で持ち込まれ、山林内に積まれています。山林を伐採し、土砂崩れなどの被害も起こってしまいました。
また滋賀県大津市では京阪神の残土・廃棄物処分地が集中しており、数十万立方メートルに及ぶ残土捨て場や産業廃棄物処分場が10ヶ所以上集中しています。京都の業者が比叡山延暦寺大霊園の隣接地で高さ50mもの残土を積み上げ、大雨時に土砂が流出し、問題になりました。1日に10tダンプが1,000台以上走行しています。
京都府内でも、城陽市の山砂利採取跡地では残土とともに大量の産廃が持ち込まれ、水銀や砒素による地下水汚染が起こりました。また、京都市伏見区の大岩山でも不法投棄された残土が2018年7月の豪雨で崩れる事故が起こりました。
各地で残土が大量に積まれるとともに、砒素や鉛などの有害物質が含まれていることも大きな問題となっています。北陸新幹線延伸計画の京都府北中部は、地質的にマンガンや砒素などの有害物質を含んでいる可能性があります。
残土を規制する条例が各地で作られていますが、国の法律では定められておらず、条例のない地域に残土が持ち込まれている状況です。国が法律を制定し、建設残土は産業廃棄物として扱うなど、厳しい規制が必要です。
北陸新幹線延伸計画で、残土をどう処理するのかは大きな問題です。さらに、京都市内での大深度地下工事の危険性や、地下水への影響、2兆円もの費用をかけることなど、問題は山積みです。計画そのものを見直すべきです。
谷埋めた残土が流出 右京区京北―河川、山林に悪影響
建設残土をめぐり、京都府内でも問題が起こっています。京都市右京区京北小塩町では、丹波広域林道開発(1985年着工、2013年完成)で谷に埋められた建設残土が、2018年の豪雨被害で流出し、桂川の上流の支川に流れ込みました。
同林道では残土流出や道路が崩れるなど問題が相次ぎ、地元の山国自治会が流出防止や道路の整備などを求めて要望しました。
同地域の林業の男性は、
「林道の残土が流出し、森林や河川への影響を心配しています。もし北陸新幹線が通ることになれば、比較にならない大量の残土が出ることになる。山を壊し、大量の残土が地域の山間に捨てられるようなことはあってはならない。建設は見直すべき」
と話します。
穀田恵二 衆院議員・日本共産党国会対策委員長―巨大開発の問題点浮き彫りに
京都府の環境影響評価委員会の「追加意見」で、具体的な残土量を示し、残土処理の事業計画まで求めたことは極めて重要です。
また、残土を公共事業などで有効利用するという鉄道・運輸機構の計画に対し、
「他の公共事業の有効利用などで消費できる量ではない」
と指摘したことは、この未曾有の巨大計画の問題点を浮き彫りにしています。
日本共産党は、北陸新幹線延伸計画やリニア中央新幹線計画でも、都市部での大深度地下事業となることや、残土、水質・水量への影響、騒音問題や住環境への影響が懸念されるなどの問題を提起し、計画の撤回を求めてきました。
COVID-19(新型コロナ)危機のもとで京都府民の暮らしと営業が深刻な打撃を受けています。自民党の国会議員は「たかだか2兆円」などとして計画を推進してきました。今回の指摘を受け止め、科学的検証を改めて行い、北陸新幹線延伸計画を再検討すべきです。